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伯国の女子テニスの先駆者と坂本九の共通点

リオ五輪で聖火ランナーをつとめた際のエステル(Francisco Medeiros/ME)

リオ五輪で聖火ランナーをつとめた際のエステル(Francisco Medeiros/ME)

 9日、伯国におけるテニスの伝説、マリア・エステル・ブエノが亡くなった。彼女は1950年代から60年代にかけて、世界4大大会(全英・全米・全豪・全仏)の4大大会のグランド・スラム(全制覇)を成し遂げた世界史上最初の選手だ▼現在でいうならセレーナ・ウイリアムス(米国)級の実績で、今なら世界中のどこに行っても超スーパースターの扱いのはず。だが、残念ながら、一部のテニス・マニアが神格化する以外にエステルがそんなスター扱いを受けている状況はここ伯国でもなかった。それは彼女の全盛時とほぼ同じ時期に選手としての最盛を迎えていたサッカーの王様、ペレと比べると本当に雲泥の差だ▼なぜ、このような格差が生まれてしまったのか。それは、当時のスポーツ選手における男女差別の問題もあれば、テニスがプロ・スポーツとして認知を受けたのが70年代に入るまで遅れたことなどいろいろだ。こうした時代的な不幸があったがゆえに、その打撃はその後の伯国テニス界にも及んでしまったとコラム子は見ている▼「世界4大大会を制したよ」「へえ、それってそんなにすごいことなの?」。エステルの現役時代の伯国の受けとめ方はこんな風だったとはよく言われているところだ。もし仮にこれがあの当時に偉業として受け止められていたならば、もしかしたら今頃伯国はちょっとしたテニス王国になれたのではないだろか。サッカー界とまでは行かなかったかもしれないが、せめてフィッツパルディ、ピケ、セナと続いた70~90年代のF1くらいのものにはなったのではないか。少なくとも、「90年代にグガが出てきた程度」で終わるようなことはなかった気がする。それくらい「周囲の無理解」がもたらしうる悪影響は大きい▼そんなエステルを思うに、コラム子は日本にもひとり、非常によく似た存在を思い出す。その人物は坂本九だ▼今となっては「日本人で唯一の全米ナンバーワン歌手」として知られ、「上を向いて歩こう」も「スキヤキ」という名で今日でも国際的に歌い継がれている。だが、それが全米チャートで1位になった1963年当時の日本での反応は「へえ」くらいのもので終わっていたという話をよく聞く。それこそ、古の伯人がエステルのグランド・スラムの偉業を聞いてもピンと来なかったのと同じような反応だ▼それが証拠に、70年代以降の九は、テレビへの露出はあったものの、歌を披露することはかなり稀になっていた。晩年のイメージはどちらかというと、クイズ番組の解答者や中高年向け番組の司会者であり、およそ「往年のポップスター」のイメージはなかった。むしろ伝説のイメージは、彼が85年8月に、あの日航機墜落事故で亡くなって以降に再浮上したようにさえ思えるほどだ▼だからこうも思うのだ。「もし、九の偉業がもっと正当に評価されていたら、日本の音楽界ももっと国を挙げて本格的に国際進出を目指していたのではないか」と。「日本の音楽でも良ければ世界に通用するのだ」という自信がアーティストやレコード会社にもっとあったならば、もっと国外に進出する意欲の向上や、その方法論だって今よりも確立されていたのではないかと▼皮肉にも現在、「世界で売れることの価値」を韓国の方がわかってしまい、2012年のPSYの「江南スタイル」の爆発的ヒット。そして今年に入っての男性アイドル・グループ、BTSの全米アルバム1位という偉業を成し遂げてしまっている。先駆だったはずの日本がそういう姿を指をくわえて見ているほかないのはとても残念だ。(陽)

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