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サピエンス全史の著者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏、ブラジル誌の単独インタビューに応じる=ブラジルでは8月に第3作目刊行

ユヴァル・ノア・ハラリ氏(flicker)

ユヴァル・ノア・ハラリ氏(flicker)

 2011年に初版が刊行され、世界中でベストセラーになった『サピエンス全史』と、2015年に出版され、同じくベストセラーになった、続編『ホモ・デウス』(邦題未定・日本語版は今年9月に出版予定)の著者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏(イスラエル・42)が、前の2作品に続く3部作の最終版となる21 Lessons for 21-st Century(邦題未定・ポルトガル語版は今年8月末出版予定)の出版を前に、ブラジルの大手書店が発行する雑誌、]cultura[のインタビューに応じた。

Q 貴方の最初の著作、『サピエンス全史―人類の歴史』では、身体的にか弱いヒト(ホモ・サピエンス)がいかにして地球を支配するに至ったかを語り、2作目の『ホモ・デウス―この後に起こる事』では、テクノロジーが進化して、ヒトが寿命さえも支配するようになり、神に近い能力を手に入れる事で起こり得る深刻な危機について語りました。どうしてこの3作目で「現在」について語ろうと思ったのですか?
A それは、人々が私に質問するからです。新作の21 Lessons for 21-st Century(仮訳・21世紀のための21の教訓)は、私と読者たちとの間のコミュニケーションを基に書き上げました。彼らとの会話だけでなく、ここ数年間に私が世界中で受けたインタビュー、世界中で行った講演がきっかけとなっています。多くの人々が移民、テロ、フェイクニュース、自由主義、民主主義の危機に関する質問を私に投げかけました。この本を通して、これらの問いかけに答えてみようと思ったのです。


Q 「21世紀のための21の教訓」には、現在人類が克服しようとしている多くの問題が出てきます。貴方はそれらの中で何が一番緊急の課題で、それの解決法は難だと思いますか?
A 最も緊急の課題は原理主義と、国家主義の台頭です。人類は今、三つの大きな危機に直面しています。それらは、核戦争、気候変動、破壊的技術です。
 今、地球、または人類が抱えている問題は、国際的な協力なくしては絶対に解決できません。どの国も、単独では核戦争を回避できないし、地球温暖化問題も解決できない。生物工学、人工知能(AI)などの行き過ぎた利用や発展を止めるための規制を定める事も出来ないのです。
 現在は経済のグローバル化が進んでいますが、世界各国の政治は未だ自分の国優先です。その使用法に極めて高度の倫理性を要求する破壊的技術の管理に関して言うならば、世界規模の解決法を見出さない限り、国家は崩壊します。そうして混沌が発生し、暴力の波や、住む場を失った人々の移民の波が世界を不安定にしていきます。
 だからこそ、各国ではびこり始めている一国主義、排外主義は極めて危険なのです。ナショナリズムに閉じこもっていては地球規模の問題は解決できないのですから。


Q 『サピエンス全史』では、現在の人類(ホモ・サピエンス)がどうして地球を支配するにいたったのか、他のヒト科の種族はどうして滅びたのかが書かれています。もし、ホモ・ルドルフエンシスや、ホモ・ネアンデルタレンシス(ネアンデルタール人)らが優位に立ち、ホモ・サピエンスが滅んでいたら、今の地球はどのようだったでしょうか?
A 簡単です。未だに石器時代が続いていたでしょう。アフリカ、アジア、ヨーロッパには数百万人の人類が住んでいたでしょうが、農業も工業も始まっておらず、都市も生まれていなかったことでしょう。アメリカ大陸には人類はおらず、ホモ・サピエンスがアメリカ大陸に入植し、滅ぼしてしまった、マンモスやサーベルタイガー、オオナマケモノといった動物が闊歩していたでしょう。


Q 世界的ベストセラー作家になった事で貴方の人生は変わりましたか?
A 私の人生は色々な意味で大きく変わりました。新しい可能性が広がった一方で、問題も増えました。私は、著作が受け入れられて満足はしています。サピエンス全史やホモ・デウスを書き上げるための調査や執筆に多くの労力を費やしましたから、それらが多くの人の手に届き、世界を理解するきっかけになったのを見るのは素晴らしい事です。
 しかし、ネガティブな事も起こりました。以前より自由な時間がずっと少なくなり、アポイントメントがずっと多くなりました。多くの時間を既に知っている事に費やさざるを得なくなり、新しい事を発見するための時間は減りました。多くの人を失望させる事になりました。10年前は誰も私の事など知らず、誰も私に期待をかけたりしませんでした。それなのに、今は毎日、数え切れないほどのインタビューの申し込みや講演の依頼、研究プロジェクトへの参加要請などが届きますが、私はそれらの99%を断らなければなりません。
 私は、家族、友人と過ごし、また、独りになって自分と向かい合うための時間を捻出するため、相当努力をしています。
 また、自分を見失わないために、ルーティーンを守ろうとしています。朝は1時間の瞑想から始め、朝食後は6~7時間パソコンを使って仕事をし、ヨガを済ませたら、犬の散歩に出ます。犬の散歩は、コンピューターの前にばかり座っていることのないようにして、木々や動物たちを眺めるよい口実です。そして、その後また瞑想します。
 私は時々、配偶者(男性)とも出かけ、友人に会ったり、映画を見たりしています。


Q ブラジルは常に、〃未来の実験室〃と呼ばれてきました。これは良い意味でも、悪い意味でもです。多くの人種、文化が混じりあい、格差が激しく、暴力も蔓延しているからです。ブラジルは20世紀末以降、社会的前進を見たものの、今はまた、危機に直面しています。貴方は、ブラジルにいる読者に向かって、進歩がもたらす矛盾について、どのような事を言えるでしょうか?
A 進歩は古い問題を解決し、新しい問題を引き起こすものです。人々はもはや、過去の達成を当たり前の事として受け止め、現在に横たわる問題にだけ目を向けて、「これほど酷かった時代はない」などと考えがちですが、これは誤りです。
 今のブラジルは50年前、100年前よりずいぶんましです。現代のブラジルでは、貧しい人々の間ですら、ペストや飢餓、他者からの暴力で命を落とす割合は1968年や1918年よりずっと低いはずです。
 今のブラジルに問題がない訳ではありません。しかし、「進歩などなかった。状況は悪いままで変わっていない。社会システムは腐りきっている。革命を起こすしかない」などと考えてはなりません。
 人類史を振り返ると、早く、魔法のような解決を約束した人や政治体制は、必ず、より大きな暴力や悲劇を引き起こしてきました。ブラジルの未来はブラジルだけにかかっているのではありません。世界諸国と協力する事が大事なのです。
 ブラジル政府単独では、温暖化からも科学技術の行き過ぎた進化からも国民を守れません。でも、ブラジルはラテン・アメリカ諸国のリーダーとして、そして、領土、人口、資源に恵まれた世界の国々の中で、〃おそらくは〃最も平和的で、最も覇権主義的ではない国家として、世界をつなげる役割を果たす大きな可能性があります。
 ブラジルは10カ国と国境を接していますが、1世紀以上どこも侵略していません。もしブラジルがその秘密を他の覇権主義的な国々に教える事ができたら、人類にとって大いなる恵みとなるでしょう。(雑誌]cultura[より)

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