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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(59)

 この伐採はあの将校の個人の商売で、賃金を払わなくてよい捕虜を使って、切り出した材木を売り、儲けていたことが帰りの話題になった。通訳がばらしてくれたのだ。だからカンボーイは私たちの怠慢を見ぬふりをしたのだ。収容所に帰りついてみると、広場の一隅に舞台が出来ていた。日曜日毎に演芸会を催すことになったという。捕虜生活が長くなるにつれて、今日が何日で何曜日かという時間的観念は、全く消えてしまった。

  一二、演芸大会

 演芸会が始まっていると言われて、そうか、今日は日曜日なんだと広場へ行く。立錐の余地もないほどの観衆で埋まっていた。舞台では股旅物が演じられている。三度笠、旅合羽の渡世人を囲んで五人のやくざが刀を抜いて構えている。衣装も刀も鬘も全部手作りだそうな、と問わず語りに隣の男が教えてくれた。立ち回りよりも手作りの小道具に感心しているうちに、一幕は終わった。拍手鳴り止まず、観衆の興奮は物凄い。歌、漫才、劇が上手なのか、下手なのか分からなかったが、楽しい半日であった。
 赤城の子守唄、支那の夜、純情二重奏、旅姿三人男、夜来香など、郷愁をそそる懐かしい歌に歌手も聴衆も一体になって、総立ちになり大合唱を繰り返した。伴奏のギターも手作りだという。次の日曜日も大盛会であった。空腹も郷愁も忘れて過ごした。
 散髪所が開かれた。私たちの宿舎の連中の散髪日が来た。三人の男がバリカンを持って待ち構えていた。一コ班一五名の丸坊主頭は、忽ちのうちに終わり、頭が寒いなどと言いながら帰途につく。宿舎に入ると追いかけるように、正門前広場に集合の触れが来た。移動するらしい。私はもう一度、林田さんが収容された病棟へ走った。入口に立っている衛生係は、
「面会禁止だ」
 と、突慳貪にいう。
「林田という年配の応召兵に伝えてくれ。俺は谷口という同郷のもんだ。今、移動することになったが、どこへ行くか分からん。それだけでいいから伝えてくれ」
 そういい捨てて背を向けた。正門前に引き返しすと、すでに大勢が集合していた。いつものように行き先は示されなかった。

  一三、邂逅(一)

 幹部候補生の甲種、乙種の試験場で山下君とばったり出会った。山下君は中学時代の剣道部の一年後輩である。まさか、同じ部隊にいるとは思いもしなかったから、よく似た奴がいるもんだとまじまじ見つめた。奴も同じ思いらしく、私を見つめている。
「山下君か?」と、声をかけてみた。
「やっぱり谷口さんでしたか」
 二人とも思いがけない場所で出会い、少し戸惑った感じで向き合った。
「どうして同年兵なんです? 先輩―」
 彼の疑問はすぐに分かった。
「俺は七歳で小学校に入ったんだ。だから中学では一年先輩ということよ」
「なあんだ。そうか。本当に同年兵なんだ」
 納得した彼は笑顔になった。まさかと思う大興安嶺の真ん中で会い、懐かしさが先にたった。剣道部で稽古に明け暮れた当時、一年後輩の彼をしっかり扱いたものだった。彼は育ちが良いらしく、おっとりしていて覇気に乏しかった。

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