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大衆迎合的な独裁政権への道?=伯国大統領選どっちが勝っても=パラグァイからの見方=アスンション在住 坂本邦雄

ボウソナロ(Fernando Frazao/Agencia Brasil)

ボウソナロ(Fernando Frazao/Agencia Brasil)

 去る7日(日)、ブラジルの総選挙第1ラウンドで、極右の大統領候補ジャイール・ボウソナロ氏が圧倒的な勝利を得た事は、ラテンアメリカの政治図を右寄りに転向させる一方、世界で近頃は又人気が上昇傾向の、強権指導者台頭に良い追風になりそうである。
 アメリカのドナルド・トランプ大統領を礼賛するボウソナロ氏は、第1ラウンドで46%の投票を得て、2位(29%)の左派PT・労働者党の候補フェルナンド・ハダジ氏を大きく引き離した。
 そして、その後に続く中道右派PSDB・社会民主党のシロ・F・ゴメス候補の12%と言う得票構図を見ると、次の第2ラウンドの決戦投票で、ボウソナロ候補の大統領当選は、間違いないと思われる。
 女性、黒人やゲイ同性愛者等に対する、毎度のスキャンダル的な発言、暴言で、米国のトランプやロシア、フィリッピン、トルコ、ハンガリー、またはその他の大統領等に良く似たところがあるボウソナロ氏ではあるが、ある一部の観察者によると、同氏は独裁者に為り切る、徹底的な権力を得るには至らないないだろうと言う意見である。
 要は、多くの強権指導者とは違って、ボウソナロ氏は、連邦議会又は最高裁でも絶対多数の勢力は固められないだろうと言う事だ。
 ボウソナロ氏はPT(労働者党)に続き、議会で第2位のブロック勢力を有するが、下院では513議席中、単に52議席を占めるに止まる。
 そのように、ボウソナロ氏は絶対権力を手中にするのは、決して容易な事ではない。
 ブラジルの経済は荒廃している。世界の大衆迎合主義のリーダー連は、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領からベネズエラの故ウーゴ・チャベス大統領に至るまで、大抵の場合、経済の好況期に構築した絶対権力と豊かな国家財政を乱費し、堕落せしめた。
 当の「ボウソナロ氏の場合、最も有りそうな事は、〃無力な大統領〃になるのではないかと思われる」とは、ワシントンの米州対話研究センターのピーター・ハキム解析者の意見である。

ハダジ(Ricardo Stuckert)

ハダジ(Ricardo Stuckert)

 米国の、〃利かん坊〃トランプ大統領は、共和党を担いで政権に就いた。
 そして、その共和党は合衆国議会をコントロールするが、ボウソナロ氏には、左様な政治背景が何もない。
 20有余年に亙る伯国連邦議員歴を有するにも拘わらず、ボウソナロ氏は知名度が低く、行政分野での経験も浅い。
 今回の大統領総選挙への出馬運動も、主に息子達の協力と、専らフェイスブック、ツイッターやワットサップのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に依存した。
 しかし、ブラジルの多くの専門家達は、ボウソナロ氏がヤヤもすれば、横暴な独裁者に変じ得る事を怖れている。
 つまり幾多の問題が有る中、ブラジルの未だ若くて、弱体な民主政体下、治安の不安に日常悩む民衆にして見れば、平穏な社会秩序を取戻す強権指導者の出現を切望する、大衆心理も良く解ると言うものだ。
 昨年の僅か1年間に、ブラジルでは6万4千人もの殺害事件が起きている。
 よって市民は、国警の権限を拡大強化し、犯人や麻薬業者等の取締まりに、容赦ない発砲も認めると言う、ボウソナロ氏の選挙公約を大いに喝采する。
 「ボウソナロは、少なくも過去30年来のブラジル版民主政体の思わしく無い結果を侮蔑した」と先週、アメリカ季刊誌=Americas Quarterlyのブライアン・ウィンター編集者は書いた。
 その中で、ウィンターは、ボウソナロが先にも、「連邦議会の閉鎖案を主張したり、かつてのブラジル軍事独裁政権の大きな誤りは、犯罪者を射殺する代りに、拷問に止めた点にあった、及び自分が大統領になった暁には、直ちに強硬な独裁政権を発足させる」等と発言した事実に触れている。
 なお、最近ボウソナロ氏は、最高裁判所の人事は、自分に近い裁判官を起用する事を約し、女房役の副大統領には、同じく軍事独裁政権の郷愁者で、最近退役した元将官を指名した。
 さらに、「1988年公布の現行憲法の改正は考えていない」とボウソナロは確言するものの、もし難しい行政問題や支障に当面すれば、躊躇せずに民主的規範や慣行を無視、または蹂躙しても当初の目的を強引に押し通すのに、やぶさかではなかろう事を示唆する言動が垣間見えると、ウィンターは言う。
 これは不吉な報せである。ラテンアメリカに於いては、右翼独裁者は往々にして、激しい政治の反作用を起させ、果ては遅かれ早かれ、何時かは急進左派政体の勃興を来すからだ。
 不幸なのは、この10月28日の第2ラウンド決戦投票で、ボウソナロ氏の対抗馬のフェルナンド・ハダジ氏も、右と左の違いはあるが、いずれも強権独裁綱領を基盤にしている事である。
 ハダジ氏本人は、PTの中でも穏健な政治家だが、PTが不名誉な汚職で腐敗し、政治的理性を失って、司法管理を社会統制に委ねる等の提案をしている。
 加えて党首グレイシー・ホッフマン女史は、またこれも困ったベネズエラの独裁者マドゥロ大統領の信奉者と来ている。
 間違った見方である事を望みたいが、この度ボウソナロ氏かハダジ氏の何れの候補者が、大統領に当選しても、ブラジルは無秩序な、混沌とした大衆迎合主義の独裁政権への道を邁進していると言わざるを得ない。(筆者註・本稿は在マイアミのアンドレス・オッペンハイマー記者の、10月13日付、当地ABC紙に載った記事を抄訳、参考にしたものです)。

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