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「マイノリティはついて来い」の限界

2日のパルメイラスの優勝記念撮影に加わるボウソナロ氏(Lucas Figueiredo/CBF)

2日のパルメイラスの優勝記念撮影に加わるボウソナロ氏(Lucas Figueiredo/CBF)

 12月2日、サッカーの全国選手権で優勝したパルメイラスの最終戦で、現在の伯国を象徴する出来事が起こった。この日は同チームのファンを公言するジャイール・ボウソナロ次期大統領がチームの経営陣に招待された。同氏は、試合後にグラウンドに降り、優勝の記念写真に収まるは、優勝杯を持ち上げるはの大はしゃぎぶりだった▼ボウソナロ氏はそのまま表彰式も残って、気がついたらブラジル・サッカー連盟のメダル授与者の横にまで立っていたが、そのときに物議をかもす出来事が起こった。それはパルメイラスのフォワード、ウィリアンがメダルを受け取ったときだった。ウィリアンが連盟代表からメダルを肩にかけてもらうと、すぐ横でボウソナロ氏が彼に目配せをしようとした。するとウィリアンは彼に見向きもせずに横を向き一歩歩いて天をあおいで両腕をあげ、優勝の歓喜のポーズを取った▼この行為は翌日、国民の間で賛否両論を呼んだ。選挙中から熱狂的なボウソナロ支持者はウィリアンの行為を「無礼者」と罵った。一方、選挙期間中に4割いた反ボウソナロ派の人たちは「よくやった」と称えた。騒ぎが大きくなったことを受けウィリアンは「優勝を喜ぶあまり、たまたま目に入らなかっただけだ」と「無視したのではない」と弁明した。だが、距離にして1メートルもない距離で、ウィリアンの視界の中にもしっかりと入っていたあの位置で「気がつかなかった」とはどうしても考えにくかった▼するとネットでは「ウィリアンは反ボウソナロ派だ。彼には障害を煩った息子がいて、弱者切捨て発言を行なうボウソナロ氏を嫌っているから」との発言があがっていた。事実、彼の幼い息子はダウン症で、その事実は既に報道もされていることだ▼ネットでの証言を総合するに、ウィリアンは、ボウソナロ氏が口にした「これからは社会的マイノリティがマジョリティに合わせていくべきだ。女性、LGBT、黒人などが『自分は差別されている』などというのはコイタジズモ(自己憐憫)に過ぎない」という言葉が気に入らないと周囲にもらしていたという▼そして、これこそがボウソナロ政権でのウィーク・ポイントになるような気がコラム子にはしている。「もう、長く続いて来た混乱は終わった。これからの伯国を、みんなで力を合わせて築き上げていこう」などと鼓舞したところで、肝心の大統領その人が何かと嫌悪感の多い人ならば、そんなことはかなわない。「自分たちはあなたには票は入れなかった。勝手にすれば」と言われてしまって、それまでだ。ただでさえ、拒絶率も、票の棄権も多かった今回の大統領選だ。自分が嫌悪を挑発する発言を先にしておいて「俺についで来い」では、ついてくる国民の数はおのずと限られてしまうものだ▼ただでさえ、すでに外相や教育相に、「マルクス主義者を排除する」と息巻くイデオロギーで凝り固まった人材をボウソナロ氏は選んでいる。彼がとりわけ女性やLGBTのあいだで支持基盤が弱いのは何もその人々が「資本論」の読者だからでもないし、特定政党が煽ったからでもない。普段の言動による「身から出た錆び」に過ぎないのだが、ボウソナロ氏はそのことに気がついていないようだ▼「それでも景気さえよくなれば」という楽観的な考え方もあるだろう。ただ、「社会は自分たちをかまってくれない」という気持ちは、金の力などではなかなか解決しないことも覚えておいた方がいいだろう。(陽)

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