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「健康な長生き」をするために=パロディーから学ぶ生活習慣改善=病の深い意味に気づき、自己実現を目指す医療=聖市ヴィラ・カロン在住 毛利律子

 いま超高齢化社会の医療問題は、世界的に深刻である。日本でも、「少子高齢化と人口減少」による人口動態の変化がおき、最も緊急な課題として「社会保障の課題―年金・医療・介護」、「現行の医療制度、国民皆保険制度の見直し」、「医療財政の限界、医療機関の改革」などの諸制度の改革、見直し、新しいルール作りが活発に検討されている。
 その中で、この頃特に目立つ話題がある。それは、アメリカのハーヴァード大学医学部などに設置された医学分野「ライフスタイル医学(Lifestyle Medicine)」と、「予防医学」(preventive medicine)である。
 ライフスタイル医学とは「生活習慣病学」だ。生活習慣と病いは切り離せないから、従来のような「病気の治療研究」だけでなく、むしろ病気になるまでの行動・環境を医学的に検討して「診療法としての予防」という概念に重点を置いていると、説明されている。これは今後の医学の中核になると言われている。
 しかし、生活習慣さえ変えれば病いを直せるということではない。その病いの遺伝性の濃淡、環境性、あるいは患者の生活習慣の影響であるかどうかの見極めは、非常に気を付けないといけない。
 専門的なことは当然医療機関に委ねるとしても、少し自分の生活環境を見直すことで、健康な長生き人生を楽しむことができるなら、これ以上の幸せは無いと言えよう。
 さて、ここに2008年、ドイツ・オリンピック連盟に提供された興味深いパロディー(滑稽な模倣)写真がある。
 一つはイタリア・フィレンチェのアカデミア美術館に所蔵されている、高さ5メートル以上もの大理石の「ダビデ像」である。1500年代イタリア・ルネサンス期の巨匠ミケランジェロによる彫刻で、人間の理想的体躯を表現した圧倒的に美しい彫刻である。
 もう一つは、アメリカ合衆国首都ワシントンD.C.の大統領記念堂の第16代大統領エイブラハム・リンカーンの座像である。
 これらは、ドイツのハンブルグにあるシュルツ・アンド・フレンズ(Scholz & Friends)という広告会社が作成し、2008年のドイツ・オリンピックのキャンペーンとして話題になった。さあ、その「ビフォアー(前)・アフター(後)」の写真を見てみよう。

1.ダビデ像の場合

本来のダビデ像(Jörg Bittner, From Wikimedia Commons)

本来のダビデ像(Jörg Bittner, From Wikimedia Commons)

ファーストフードを常食した後のダビデの像(Latin post Yara Simon(staff@latinpost.com))

ファーストフードを常食した後のダビデの像(Latin post Yara Simon(staff@latinpost.com))

 この画像は持て囃されて、オモシロ可笑しく拡散した。「ダビデ君の日常食」という触れ込みでは、「マクドナルド、ポパイズ・ルイジアナ・キッチン(フライドチキン)、エル・ポヨ・ロコ・メキシカンフード、デルタコ・タコス、バーガーキング」などなど有名なファーストフード店が名を連ねている。

 もしダビデ君が、ビッグサイズの清涼飲料を片手に、テレビやゲームをして、一日中ソファに寝そべってだらだらと長時間動かずにいたら、正真正銘のカウチポテト族(「ソファーの上に転がっているジャガイモ」に譬えた)になる。体重100キロ超えは、一年を待たないであろう。

2.リンカーンの場合

カウチポテト族になったリンカーンの像(Latin post Yara Simon(staff@latinpost.com))

カウチポテト族になったリンカーンの像(Latin post Yara Simon(staff@latinpost.com))

本来のリンカーン像(Daniel Chester French [Public domain])

本来のリンカーン像(Daniel Chester French [Public domain])

 やはりファーストフードを食べ、長年座り続けることにより、足腰が弱ってしまったのであろうか。台座には同じく、「もし動かなかったら、こうなるぞ」という言葉が刻まれている。
 次の画像は、レントゲン写真で見る体重980ポンド(444キロ)の男性の体内である。周りに付いた脂肪層の厚さに包まれた骨格は一般人と変わりないのが、遣り切れない。

980ポンド(444キロ)の男性の脂肪と骨格

980ポンド(444キロ)の男性の脂肪と骨格

レオナルド・ダ・ビンチの人体図(Leonardo da Vinci [Public domain])

レオナルド・ダ・ビンチの人体図(Leonardo da Vinci [Public domain])

 

 

 

 

 

 

 

▼生活習慣病を避けるための食生活とは


 このような病的な肥満が、低年齢にまで及んでいるというアメリカの実態は、本当に深刻なことであるが、それはブラジル社会においても同様な現象を示すデータがある。
 Agencia FAPESPによると、ブラジルの男性の52・6%、女性の44・7%が過体重で、低年齢層に確実に広がっている。この数字に対するブラジル政府のガイドラインは次のようにまとめられている。
(1)新鮮な主食を摂る。
(2)油、脂肪、砂糖、塩は適度の量で使用する。
(3)一日の決まった時間に快適な場所で食事をとる。食べ放題のビュッフェや騒々しい、ストレスの多い環境を避ける。
(4)できるだけ他の人と一緒に食べる。
(5)さまざまな生鮮食品を提供している店や市場で食べ物を買う。インスタント商品は避ける。
(6)食品の準備と調理を楽しんで作れるように努める。
(7)家族は料理の責任を分担し、健康を支える食事に十分な時間を費やすこと。そして、外食の場合、作りたての料理を提供するレストランを選び、ファーストフードチェーンを避けること。
 生活習慣病というとすぐに「肥満」が挙げられ、「肥満は万病のもと」のようにいわれるが、国立循環器病研究センターの情報サービスの「肥満について」の項目では「体脂肪の重要さ」について次のように解説している。

「ビレンドルフのビーナス」と呼ばれる石灰岩製の女性像

「ビレンドルフのビーナス」と呼ばれる石灰岩製の女性像

 1909年にオーストリアで鉄道工事の際に、3万年前の旧石器時代の地層から「ビレンドルフのビーナス」と呼ばれる石灰岩製の女性像(11cm大)が発見された(ウィーン自然史博物館蔵)。
 大きな乳房、大きく張り出した腹、大きな臀部などは、食物が豊富にあったとはいえない旧石器時代に、肥満の人がいたことは一体何を意味しているのか?
 それは、「倹約遺伝子」の働きだ。厳しい食糧事情の中を生き抜くために、乏しい食物から得られたわずかなエネルギーをできる限り効率よく吸収・利用し、無駄なエネルギーは使わず、余ったエネルギーはすべて体の中に脂肪として蓄えておく仕組みをもつ遺伝子だ。3人に一人はこの遺伝子を持っているそうだ。そのため、ある程度の体脂肪蓄積は人類生存上、必要不可欠といえる。事実、日本人の統計でもやや太り気味の方が長生きをしているという。
 体脂肪には本来、身体機能を維持する上で、きわめて重要な役割があり、体温を保つための断熱効果。女性では子宮を暖める。出産後母乳のエネルギー源。さらに皮下脂肪の重みで骨に負荷を与え、骨を丈夫に保つ。一方、男性の場合、男性ホルモンには筋肉を増やすとともに、その熱源となる内臓脂肪を増やす働きがある。
 いま問題になっているのは、脂肪などの過食、運動不足などで内臓脂肪が過剰に蓄積した「内臓脂肪型肥満」であり、少々太っていても、血圧、血糖値、コレステロール、中性脂肪、尿酸値、肝機能などが正常で、運動量も十分であれば、内臓脂肪細胞は本来の役割通りに機能を果たしており、とくに減量にこだわる必要はない、という。
 逆にダイエットの失敗によって、体重が減ったり、増えたりを繰り返すことの方が、はるかに危険だという。つまり、氾濫するダイエット情報に振り回されないことが最も大事だ。健康食事法も、自分が実践できる食事法を見つけ、適度なタンパク質と最小限の炭水化物、多くの野菜を食べることを心がけることが提唱されている。

▼ホリスティック医療

 「ライフスタイル医療」と共に知られているのが、「ホリスティック医療」である。「日本ホリスティック医学協会」のホームページから、「自然治癒力」に重点を置いた興味深い案内を纏めてみた。
 ホリスティック(Holistic)という言葉は、ギリシャ語で「全体性」を意味する「ホロス(holos)」を語源とし、そこから派生した言葉には、whole(全体)、heal(癒す)、health(健康)、holy(聖なる)…などがあり、健康-health-という言葉自体が、もともと「全体」に根ざしている。
 人間を「体・心・気・霊性」等の有機的統合体と捉え、社会・自然・宇宙との調和に基づいた包括的、全体的な健康観に立脚する。
 生命が本来、自らのものとしてもっている「自然治癒力」を癒しの原点におき、この自然治癒力を高め、増強することを治療の基本とする。
 病気を癒す中心は患者であり、治療者はあくまでも援助者である。治療よりも 養生、他者療法よりも自己療法が基本であり、ライフスタイルを改善して患者自身が「自ら癒す」姿勢が治療の基本となる。
 かつ、西洋医学の利点を生かしながら中国医学やインド医学など各国の伝統医学、心理療法、自然療法、栄養療法、手技療法、運動療法、などの各種代替療法を総合的、体系的に選択・統合し、最も適切な治療を行う。
 病気や障害、老い、死といったものを、単に否定的に捉えるのではなく、むしろその深い意味に気づき、生と死のプロセスの中で、より深い充足感のある自己実現をたえずめざしていく。
 しかし、ここで大事なことは、ホリスティック医学はアンチ西洋医学ということではなく、西洋医学が必要な状態では上手に用いることである。的確な手術や検査の必要性はもちろんのこと、代替療法を併用することもあるが、その際にただ寄せ集めだけでなく、患者に適した時期や組み合わせなどを検討して統合的、体系的に用いることが重要になる。

▼病によって人間を知る

 病気、障害、老い、死などは一般に喜べるものではないとしても、単純に忌み嫌い、嘆き、悲観するものでもない。
 健康な状態、病気の状態に関係なく、人間の「からだ」というものは、常に全体的にとらえる必要がある。人間の「からだ」とは、肉体・精神・心・霊魂の総体であり、すなわち人間そのものを指しているからである。ゆえに、健康、あるいは健康破綻としての病気について考えるということは、「人間について考える」という大切なことである。
 病気になった原因・意味を生活習慣の問題やストレス、対応の仕方から考えること、さらには、社会制度、職場環境など個人を越えた問題、そして環境問題など、人類、地球レベルでの問題をも考えることで気づきが得られ、むしろ人生の転換点になることもある。
 そして、「健康や若さなどの明るい面だけをよしとするのではなく、病気や老いなどの影の価値をも認めていく姿勢を重要と考える」という説明には、深く感銘した。一言で言えば、「病の深い意味に気づき、自己実現を目指す」ということだ。
 仏教では「病によって道心は起こる」という大切な教えがある。
 今日の超高齢化社会の中で、「長生きすること」や「健康であるための取り組み」が盛んになってきたことに、たいへん心強く感じている。

【参考文献】
Harvard CME |
Lifestyle Medicine
https://www.instituteoflifestylemedicine.org
「ホリスティック医学」http://www.holistic-medicine.or.jp/holistic/
国立循環器病研究センター
www.ncvc.go.jp
Latin post Yara Simon
(staff@latinpost.com)
German Olympics Campaign for Moving Fat Statues
http://www.forte.fitness/blog/2018/5/15/the-statue-of-david-returns-to-italy-after-3-years-in-the-usa
Agecia FAPESP
http://agencia.fapesp.br/drivers-of-the-obesity-epidemic-in-brazil/28742/

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