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メキシコ大統領の間違った理解=アラン・ガルシア自殺について=パラグァイ在住 坂本邦雄

メキシコ大統領のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏(Agencia de Noticias ANDES)

メキシコ大統領のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏(Agencia de Noticias ANDES)

 なんとした皮肉か! 伯国のオデブレヒトに関わる贈収賄スキャンダルの問題で、逮捕される寸前に自宅でピストル自殺を遂げた(2019・4・17)ペルーの元大統領(1985―90/2006―11)、アラン・ガルシア氏の悲劇は、メキシコの古参左翼政治家、ロペス・オブラドール現大統領が、「正にこれは新自由主義経済の弊害副産物に他ならない」と断言、吹聴するのに利用した事だ。
 しかし、事実は全く別である。オデブレヒト汚職のスキャンダルの数々は、ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ(2003―10)及びジウマ・ルセッフ(2011―16)各大統領の左派大衆迎合主義政権下で産まれ、栄え、広まった。
 ガルシア氏死亡の数時間後、メキシコのAMLO=アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は、ガルシア氏の自殺を悼み、全ては世界中を汚染する、新種のオデブレヒト菌の害毒に原因する惨劇で、その根源の政治と経済の癒着を、早急に根絶すべきだと、ツイッターした。
 本当だろうか? ブラジルの最大手建設会社オデブレヒトは、各国で政府関係の公共建設工事の契約を得る為に、2001年から2016年の間に、およそ8億ドルの賄賂をバラ蒔いたと言われる。
 ちょうどその頃が、ラテンアメリカにおける、左派の各国大衆迎合主義政権の黄金時代だった。
 そして、そのオデブレヒトの闇金の大部分は、左翼の有力政治家連の懐に入った。
 オデブレヒト社の主要幹部連の告白に基いた、アメリカ合衆国司法省の報告による数字を参照すべしである。
 ブラジルで、ルーラ及びジウマ両大統領時代に、同社は3億4900万ドルの色んなリベートを国内で払った一方、同時期は中道右翼政権の時代だったペルーでは、僅か2900万ドルの裏金が動いただけだった。
 なお、故ウーゴ・チャベスと後任のニコラス・マドゥロ両大統領在権中の、2006年から2015年のベネズエラ国では、9800万ドルの賄賂をオデブレヒト社は支払った。ペルーで払った闇金の3倍以上の金額である。
 次いで、同社は、2007年から2014年の、クリスチーナ・フェルナンデス前大統領政権下の、アルゼンチンで、3500万ドルの賄賂を使った。
 ラファエル・コレア大統領のエクアドルでは、2007年から2016年の間に3350万ドルの裏金を払った。
 ちなみに、比較して観察すると、ブラジルの件くだんの建設会社はコロンビアで1100万ドル及びメキシコでは、1050万ドルの賄賂を、自由貿易主義の大統領がそれぞれ統治していた期間を通じて支払ったに過ぎない。
 そこで「オデブレヒト社は新自由主義となんの関係があるのか?」と、ヒューストンの名門校、ライス総合大学のフランシスコ・J・モナルディ教授は、ロペス・オブラドール大統領の例のツイッターに関して疑問を投げ掛ける。
 そして「あの腐敗し堕落した怪物(オデブレヒト社の事)は、ルーラとPT・労働者党が統治下のブラジルが生んだ産物で、その申し子が、即ち故チャベスが遺したベネズエラである」と断じる。
 同教授は、ペルーにおけるオデブレヒト事件をマスコミは大きく報道しているが、その外のもっと酷い収賄スキャンダルに巻き込まれた国々に関しては、それ程に触れていないと言う説明である。
 理由は、ペルーの検察庁は、汚職に対して決然たる、ドラスチックな攻勢を執った事によるものである。
 現に、この度自殺したガルシア氏を始め、アレハンドロ・トレド、オリャンタ・ウマラ、ペドロ・パブロ・クシンスキ前元大統領、およびその他の与野党のいかんを問わず、主だった政治リーダー達の厳しい捜索が行われている。
 他方、政府にコントロールされているベネズエラの法廷は現在、国外に亡命中のルイサ・オルテガ前検察長官の言によると、オデブレヒト社から3500万ドルの賄賂を受け取ったと言われる、マドゥロ大統領は捜査の対象にもされていない。
 もう一つ、オデブレヒトのスキャンダルの影響の副産物として危険なのは、間々もするとペルーで今後、大衆迎合主義的な反応の動きが生じないかと言う懸念である。
 多くの前元大統領や野党派の大物リーダー、例えば捜査中のケイコ・フジモリ女史等の存在は、腐敗の撲滅を唱えて、1998年に決起した、ベネズエラの故チャベス大統領の如き、大衆迎合的なリーダーが、又ペルーでも出現しないとは限らない事である。
 オデブレヒト事件での天邪鬼的な、捻くれた皮肉は、徹底して腐敗を追求、捜査しているペルーのごとき自由市場の民主主義は、国の名誉の維持に甚だ高い代償を払っている。だが、一方ベネズエラの様に腐敗し、堕落した独裁政権は、大して問題視もされずに過ごしているのである。
 この、オデブレヒトの醜聞スキャンダルの示すものは、メキシコのロペス・オブラドール大統領が、その見当外れなツイッターで述べた見解とは正反対である。
 教訓は、腐敗や汚職は大衆迎合主義のリーダー連の許でより栄え、民主政体は侵食され、必然的にその腐食を防ぐべき統制機能が麻痺されてしまう事を教えている。(筆者註・本稿は当地の4月23日付ABC紙に載った、マイアミ在のコラムニスト、アンドレス・オッペンハイマー氏の記事を参考にしたものです)

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