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新日系コミュニティ構築の“鍵”を歴史の中に探る=傑物・下元健吉(31)=その志、気骨、創造心、度胸、闘志…=外山 脩

農業展覧会での下元、農相、井上理事長(左から)

農業展覧会での下元、農相、井上理事長(左から)

 下元健吉は、生身の人間らしく、その生涯を通じて多くの失敗を犯し、最後までそうであった。が、並の人間には成し難い何事かをし遂げたことは確かである。
 ところで、命をかけて追求し続けた“新社会”については、基本的にどの様な思想を持っていたのであろうか。
 下元は戦前、マルクス主義に関する本を熟読していて「これに比べると、我々がやろうとしている産組運動なんて、全くけち臭いものだな…」と呟いていたという。
 組合の職員の集会で話をした時「コペラチズムと共産主義の違い」について質問され「違いは紙一重である」と答えたこともある。
 ために共産主義に近い思想を持っていたと見做す向きもある。が、これは違うであろう。共産主義は私有財産の否定を基本としているが、下元は否定していない。
 しかし資本主義からは、脱しようとしていた。
 しかして――すでに本稿の中頃で記したことであるが――こう唱えた。
 「我々は此処ブラジルで産業組合を組織した。産組の究極の目的は新しい社会の建設にある。新しい社会とは何であるか。それは言わずとしれた共存共栄の社会である。従来の利益社会から共存共栄の社会を創造する。従来の利益社会人から組合人となる」


資本主義と社会主義の混血児

 下元は「コペラチズムは資本主義と社会主義の混血児」と定義したこともある。
 また、例えば、増資積立金制度を批判されると「組合の財産が大きくなれば、それは組合員の財産が大きくなるということである」とも反論している。
 以下の様なことも言っている。
「保険衛生、教育、娯楽、衣食住、生活の合理化、このようなことは協同組合の力ですべて解決する。保健衛生は、過激な労働が資本である農村人にとっては解決されねばならぬ問題である。組合の力で病院を建てるところまで行かなくてはならない
 「(組合員の居住地域に)学校がない場合は、我々の手によって建てなくてはならない。ブラジルでは(行政機関に)学校が足らないといくら抗議しても、それだけではだめだ(実現しない)。出来れば大学までも自分達の力を集結して建てる」
 「(地域地域に)共同の力によってシネマ館をつくる」(カッコ内は筆者註)
 このほか衣食住や生活の合理化についても、同種の構想を持っていた。
 当時、他の産組は――現在もそうだが――日系・非日系を問わず、事業は経済活動に限定していた。下元は、それを含めて、対象を組合員の生活のすべてに拡大していた。こうなると、経営というよりは政治である。
 そう、彼は政治家でもあったのである。
 政治家として、共存共栄の原則に基づく新社会を創り上げつつあったのである。
 こう観ると、その本当の人物像、イメージが鮮明になってくる。一介の組合経営者ではなかったのだ。(つづく)

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