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特別寄稿=日本語学校の価値を考える=ブラジリア 矢田 正江

「世界を味わい尽くす」ための日本語

 旧年12月19日にオンラインで開催された「南米・全国日本語教育会議―プレ会議」に参加した感想を、ここにしたためたい。
 2008年に全伯で日本人移住百周年記念祭が盛大に執り行われ、12年の歳月が流れた。今回の参加者にその当時の関係者が何人居たのだろうか? 
 参加者の中にポ語だけ、どちらでもよいという人が多くみられた。すでに、戦後移住の一世も数少なくなっているし、日本語教育関連者や日本語教師も変わってしまった。とはいえ、バイリンガル教師が増えたことは喜ばしい。
 当ブラジリア日本語普及協会の直営校並び会員校では非日系教師が増加している。ブラジリア大学の日本語科卒業生が現出した。
 伝統的文化は外国人が興味を持つ内容であるから、もちろん指導はする。だが、私が特に日本語指導で大切にしているものがある。
 それは【オアシス運動】
《オ》おはよう(ございます)
《ア》ありがとう(ございます)
《シ》失礼します
《ス》すみません(でした)
 人間関係の潤滑油になる最小限の「ことば」だと思っている。ブラジルは多文化共生の国である。その中で日本語を覚えたいと思って来る学習者に日本語を理解させる大切な場所が学校だ。
 例えば日本へ留学、就労に行くと必要な言葉である。また、海外にある日本企業で働く場合も必要な日本語。
 「もっと人間関係を深く円滑にし、そしてこの世界を味わい尽くすことを可能にする力を持っているのが日本語」と言うのは、齋藤孝明治大学文学部教授です。
 著書に「学校では教えてくれない 日本語の授業」という本がある。日本語教師には進めたい本である。

「日本人会」という言葉を考えてみる

 私はもうすでに死語だと思っている。移住一世の子弟教育の想いは引き継がれてはいるが、日伯文化協会という名称に変わり、運営者も三世以上である。
 使用言語もポルトガル語になり、役員のなり手がない。伝統的文化はポ語で盛んに引き継がれ、ある面はブラジル化した日本文化になっている。
 一世が異国での生活に慣れるため、親子間の断絶を無くすために日本語学校を建設した目的、意図はすでに果たされ、多くの子弟がそれを叶えてくれた。
 また、ブラジルの高等教育も受けさせブラジル社会での活躍も認められている。助け、助けられる絆の精神は繋がれている。これが現状だと思う。
 深い心の温かい思いで日本語教育や日本文化に携わっている多くの日系人も知っているが、すでに二世から三世・四世・五世・六世世代に変わってきているのである。
 全ての会議や行事はポ語であり、日本語の継承は三世までと言われる所以である。

逆らえない時代の流れ

 日本語教育界でのウエブ会議に参加して、日伯両語でないと会議ができなくなってきている。時代の流れに逆らうことができない。
 今年のコロナ禍でパンデミックになり、オンライン授業に急きょ授業体制が変わった。何の準備もなしにICT(情報通信技術)による授業を手探りで始めたのが本音であろう。
 その中で、やはり若手教師の進出は目覚ましい。柔軟な頭脳でいろんなアプリケーションやサイトの使い方で学習者を魅了している。オンライン授業のメリットもデメリットもあるが、来年の前期もブラジリア地区の日本語学校はオンライン授業と決まっている。こうなれば若手教師にバトンタッチして継続していくしかない。

ブラジリア日本語モデル校の修了式。学習者も教師も若いブラジル人が多い

現代の「日本語学校の価値」とは?

 1908年日本人が移住して、日本語学校を作り子弟に日本語を教えた。
 文盲(無学)にさせない、親子の断絶をしないために学校を作った。それが112年経った今、「日本語学校の価値とは何か?」と問われている。なんと答えよう?
 日本語学校は世代交代し、変容している。当ブラジリア日本語モデル校は成人クラスで非日系が多い日本語学校である。
 首都である環境から高学歴の学習者も多い中、日本語を習得して日本理解者や日本・ブラジルで活躍できる人材育成を強化している。
 ブラジル外務省の外交官への日本語指導も行っている。日本留学生も多いモデル校でもある。
 現在も【ジェットプログラム】で日本滞在中の元学習者(非日系)から、「今、この仕事ができるのは先生の指導のおかげです。感謝しています」とつい最近WhatsAppで便りもきている。
 ブラジルは各種人種の集まりで言語自然が豊富と言われているが、弱い言語は消えていくとも言われる。

ブラジリア日本語モデル校の修了式。学習者も教師も若いブラジル人が多い

日本語が分かれば世界中の本が読める

矢田さん

 日本語学校も減少気味と言われて久しいこのごろである。日本語を習得したらこんな市場があるよと伝えることができるか?
 私は一つの例として日本語を習得すると、世界中の読み物が日本語で読めるよと伝えている。それは日本ほど世界中の読み物を日本語で出版しているところはないと言われているから。
 日本語習得の利点や市場をアピールできるよう、教師も勉強しマーケットを探す必要性がある。
 日本語教師である以上、学習者増加と市場開拓に目を向けよう。日本語学校として、日系社会による日本語、日本文化普及への協力は日系社会との連携強化につながり、日本の多様な魅力を通じた国際交流を担う日本とブラジル社会とのしなやかな懸け橋にもなる。
 これも現在の日本語学校の価値ではないだろうか?
(ブラジリア日本語普及協会副理事長、ブラジリア日本語モデル校教務主任)

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