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日伯の提携を世界のモデルに=日系農協セミナー=「来るべき食糧危機に備える」=ジャーナリスト池上彰氏が講演

ニッケイ新聞 2011年2月3日付け

 「お父さ〜ん!」 —。池上彰氏が登壇すると会場からそんな歓声が起きた。ニュース解説等でその分かり易い説明が人気を呼び、テレビ出演が絶えない人気のジャーナリストである池上氏。NHK「週刊こどもニュース」の11年間に及ぶ出演から「お父さん」のイメージも根強い。1月28日の日系農協セミナーのプログラムの中で、会場は唯一の満員御礼となった。「来るべき食糧危機に備える—日本の針路」と題した講演で時折冗談を交えながら日本の政治、農業等の情勢を噛み砕いて説明し来場者を惹きつけた。
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 講演は混迷する日本の政治から始まった。先月5日、平均視聴率14〜5パーセントを誇る民放の報道番組に菅首相が生出演した際、「現役の首相が生出演したら普通視聴率は上がります。しかし視聴率は6パーセント、番組始まって以来の低いものとなりました」と国民の菅首相に対する人気、関心の無さを露呈する形となったと説明。
 農業関係では、日本が6月を目処に参加の是非を決めるTPP(環太平洋経済連携協定)について、「入るも地獄、入らぬも地獄」との農業界、経済界への影響を語った。
 TPPは「太平洋に面した国がせーので、関税を止めること」と説明し、「日本はしばらく知らん顔していたが、アメリカが参加と聞いて急に慌て始めた。それは鳩山さん時代の基地問題でギクシャクした関係を直したい、ご機嫌取りである」とチクリと刺す。
 TPPへの参加を仮定し、農林水産省は海外の安い農産物が国内に入ってくることでGDP(国民総生産)の7兆9千億円の減少を見込んでいる。一方、経済産業省は参加しなければ工業製品の輸出が減り、10兆5千億円の減少があるという。
 「これでは参加したほうが少しお得な計算ですね」と笑いを誘ったが、可能性の高い参加の道を選ぶと農業界の打撃は避けられず、農家の力になる支援が必要であると付け加えた。
 摂取カロリーで換算される日本の食糧自給率は40パーセント。「自給率を高める考えも大切だが、安定的に輸入を行える状況を保つ事が大切」として、日伯で進めるモザンビークのナカラ地域開発の例を挙げた。
 「内戦も終わり、今後アフリカで爆発的な経済成長が始まる。モザンビークの開発はアフリカの食料問題を相当程度好転させる。そうして、農産物を輸出できる国ができてくればアフリカのアジア等からの輸入が減り、ひいては日本の食糧安全保障にも繋がる」との考えを示した。
 最後に「ブラジルと日本の提携は様々な国のモデルとなる。また日本の農業者はブラジルの日系農協との相互協力の下、その努力する姿から学ぶ立場にいる」と述べ、約1時間の講演を終えた。

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