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連載小説

道のない道=村上尚子=(33)

 この蜂は「アフリカ蜂」といって、蜜が多く採れるということで、わざわざブラジルがアフリカから取り入れたものだそうだ。ところが、手に負えない獰猛な蜂だとは知らなかったそうで、何人もの死者が出ているとのこと。  この蜂騒動の後、家に着いてみると、八羽の鶏は全滅、犬は本能的に暗いカーマ(寝台)の下へ潜り込んだらしい。そこから身動きもせ ...

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道のない道=村上尚子=(32)

 そのうちに私はどんどん弱りきってきた。このままでは死ぬしかない……思い切ってドラム缶から出た。前が見えにくいほどの蜂の群れの中を、よろよろ逃げた。   この時、ふと庭を通り過ぎようとしたら、キナ粉餅のように膨らんだものが、力なくうごめいている。里子をわざわざ裸にして、日光浴をさせていたのを思い出した。蜂は二重、三重どころではな ...

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道のない道=村上尚子=(31)

 小規模とは言っても、何アルケールという土地での仕事、それなりの資金もいるし、運が良ければ金が儲かった。そして、ゆくゆくは、「バタタ王」のような夢をみた。であるから、小さな農家は小さいなりに、精一杯の形で勝負した。結局、彼らも又、大体三回も失敗をすれば、同じように破局が待っていた。  私たち家族も貯めていた金を元手に、一郎の夢に ...

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道のない道=村上尚子=(30)

 この時が一郎のかきいれどきとなる。よろい戸を下ろすのは、亡くなった者と縁者への敬意の形らしい。  埋葬が済むと、数十人の人たちが、どっと入って来た。殆どの者がピンガをあおるためだ。一郎は慣れたもので、この客達の対応をこなす。体中、活気に満ちている。  この店にいた間に四回ほど、そんなことがあった。後は、何の変哲もないバールであ ...

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道のない道=村上尚子=(29)

 家計の財布は一郎が握っていて、それに何の不満もなかった。年中現金の顔はあまり見ない世界にいたので、家計を任されようが、そうでなかろうが気にもならない。  一週間もした頃、一応家の中のことは慣れたので、改まってバールを覗いた。二、三人の客が、ピンガを飲んでいる。陳列ケースの中には、ぱっとしない「サルガード(前菜)」が並べてある。 ...

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道のない道=村上尚子=(28)

「あの靴の中の足先には指がないとは、どういう形をしているのだろう……」  緊張しながら盗み見た。 「両足に指がないくらい、人間がまともなら関係ないじゃない」と自分に言い聞かせてもいた。    結婚式は、イビウーナの町で行なわれた。私たちの知らない人間ばかりが、五十名くらい参加しているのは意外だった。こちらは、私たち家族のみ六名で ...

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道のない道=村上尚子=(27)

 パトロンは、よく太っていて、後の壁と粗末なテーブルの間に、どっしりはまり込んだ。色白の短い首に、大きな頭が乗っている。  その彼は、見かけと違って、テキパキしたボリュームのある声で話し始めた。大きな目玉に、ぐいっ! と力が入った。 「尚子さんに、再婚の話をもってきました」と言う。  相手は、山本一郎といって、イビウーナの町でバ ...

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道のない道=村上尚子=(26)

 蛇は、ひろ子から私へ目を移した。こちらも睨み返した。蛇は、この無謀な私に気圧されたのか、闘争力を失った。そして池のほうへ体を延ばして、うねうねと逃げて行った。どうして私に、そんな勇気があったのか、分からない。夢中であった。  我にかえった私は、何気なく後ろを振り返った。たまたま、あの背の高い、よく日焼けした顔の青年が通りかかっ ...

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道のない道=村上尚子=(25)

 ブラジルに景気が出てくると『クルゼイロ』、パラグアイなら『グアラニー』というお金を、商人たちは欲しがる。この町からブラジルへ、移民たちは脱出することになる。彼らは、所帯道具を担いで逃げて行く。  するとパラグアイの兵隊は、見ぬふりをしてブラジル側の兵隊へ通報しておく。その家族が汽車に乗って、ブラジルの領土に入ったとたん、密入国 ...

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道のない道=村上尚子=(24)

 アンタは、あの小さな蟻を食べるのだそうで、蟻の巣を見つけては、鼻を突っ込み、平らげて行くという。蟻の巣といっても、日本のものとは規模が違う。直経一メートルくらいの土が盛り上がっている。それだけでも大きいのに、その下は蟻の大都会だ。ずっと縦横に広く深い。このアンタが、何と二本足で歩くのだそうで、私たちは、咄嗟にこの動物が頭をよぎ ...

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