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「秘すれば花」。でも見せた=加賀宝生サンパウロ公演=能の世界たっぷりと2時間=緊張、静寂…笑いも誘う

1月25日(土)

 ブラジル日本移民九十五周年などを記念し、石川県金沢市から訪れている能楽団体・加賀宝生が二十三日午後八時から、サンパウロ市のSESCコンソラソン―アンシェッタ劇場で公演。舞囃(まいばやし)「高砂」に始まり、世阿弥作の能「羽衣」で締めくくられた約二時間の舞台に、客席を埋め尽くした三百人を超える観客から惜しみない拍手がおくられた。

 当日は演目の合間に、能楽についてのレクチャーが挟まれるという変則的なスタイルで進行。二十一日、ポルトアレグレ市でも行われた、このブラジル公演を考案・企画した日系二世の続木エルザさんが熱心に説明に当たった。
 ミニマルにして豊饒――。能楽が特徴とする余剰を省いた表現の世界に触れた観衆からは「なんてコンパクト」などと、感嘆の声が漏れていた。
 謡をバックに囃しが加わって、シテ(主役)が能の場面を装束なしで舞うのが舞囃。その代表的作品「高砂」で幕を切った舞台は続いて、仕舞(しまい)へ。「邯鄲(かんたん)」、「八島」、「井筒」、「船弁慶」、「土蜘蛛」が続木さんの解説交じえながら、上演された。
 緊張と静寂に背筋が伸びっぱなしだった観衆はここで一息。本来は舞台裏の秘め事である「着付け」を目に出来る機会に恵まれた。天女が羽織る装束の織り方・素材は?。また、どう重ね着されているのか、などが着付けした薮俊彦さんから明かされた。
 客席の熱い視線を浴び続けた天女役の佐野萌(はじめ)さんは、「役者人生初めてのこと。七十四歳にもなって、このような形で公衆の面前にさらされるとは」と苦笑い。「舞台ではぜったいに笑ったりしないのだが、今回ばかりは我慢出来なかった」と続け、大きな笑いを誘っていた。
 公演の最後は能「羽衣」。ブラジルでも関連本が出版、演劇化された経緯があるなどなじみの深い作品で締めくくられた。

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