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史料館移民名簿修復へ=丈夫な和紙使用=地道な作業に追われる日々=長繊維のコウゾ、ミツマタ

3月27日(木)

 昨年十月にブラジル政府から給付された助成金を利用して、ブラジル日本移民史料館(大井セリア館長)では現在、虫食いなど破損の目立つ移民船乗員名簿の修復に乗り出している。専門家のノエマ・シアンフロネさんに指導を受ける史料館スタッフは元通りの姿を取り戻そうと、地道な作業に追われている最中だ。ここで一役買っているのが和紙―。丈夫で劣化しにくいため、こうした現場において世界的に重宝されているという。

 ノエマさんのアトリエは化学の実験室のようだ。白衣姿の作業員、ルーペ、ピンセット、ものものしい機械類まで並ぶ。その過程には水を使えば、熱も用いる。「修復には忍耐と数学的知識が必要よ」
 趣味が高じて八九年から古書の修復を専門に手掛けるようになった。ブラジルでは第一人者として知られる。大学では化学を学んだと聞いて納得。
 「やっぱり和紙はすごいな」
 史料館スタッフとして働く、JICA青年ボランティアの忠谷美宏さん。スウェーデンに留学し製本技術を学んだ経験もあり、作業は手慣れたものだ。知ってはいても改めて驚くのは和紙の特性で、「表紙などそれ以外の紙が使われているところはぼろぼろ」
 値段や版元との関係で手に入りにくいのが欠点といえば欠点。六十センチ四方程度の大きさで一枚百五十レアルも達する商品も。加えて伝統工芸という閉鎖的な業界であることが入手しづらい状況を招いている。ノエマさんは「ワールド・ペーパー」を経営する鈴木セシリアさんに頼る。
 和紙は日本でしか作れない。だから、日本から輸入することになる。忠谷さんはブラジルでパインやヤシから「アマゾン・ペーパー」と呼ばれる紙が作られていることを知り、「和紙の代わりにならないか」とノエマさんに尋ねた。
 答えは「ノー」だった。ソーダ水を混ぜていることがどうも問題らしい。生産過程に使用する水の質、漉(す)き技術も和紙とは大きな差がある。何よりも「コウゾ、ミツマタの繊維は長くて丈夫」。結局は〃ワシ〃が一番と、やはりその座は揺るぎないことに。
 名簿の修復は表紙や綴じの部分が主で、和紙が使われる中身ページの破損は少ないようだ。作業は汚れ・染みを落とすことに始まって、裂けた部分は透明なフィルムのような特殊素材を熱で張り付けて補強。穴は同じ色合いの和紙で埋める、といった具合に続く。
 ノルマさんの〃患者〃を見せてもらった。和紙による〃延命〃を待つのは―約五百年前の活版印刷初期に作られブラジルに持ち込まれたラテン語の聖書から、外交官でもあった文豪ギマランエス・ローザが海外から妻に送った恋文まで。古色蒼然、そうそうたる顔触れだ。
そんななかに名簿はある。日本移民も名実ともにブラジル史の仲間入りを果たした思いがした。

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