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コラム 樹海


 日本の家は小さくて狭い。江戸の頃に職人さんや庶民派が暮らした長屋は「九尺二間」が決まりだった。玄関というよりは「入り口」がふさわしいところが九尺。奥行きが二間(ニケン)なのだから─とてものほどに大きいとは言い難い。こんな床しき伝統を受け継いだわけでもあるまいけれども、今も日本の家は狭く小さい▼尤も、言い得て妙な巧い俗言がある。確かに「立って半畳・寝て一畳」というご老人好みの諺は蓋し名言だ。寝るのに一畳は欠かせないが、立ち居振る舞いには半畳あれば十分。なるほどと納得したいところながら、やはりもうちょっと余裕をもちたい。「日本人はウサギ小屋に住み暮らす」と痛烈な皮肉を浴びせたのは仏の政治家だったが、せめて「馬小屋」で暮らしたいのが日本人の本音だろう▼江戸の長屋よりは大きくなってはいるけれども、欧米に比較すると日本の家はまだまだ小さい。日本の一人当たりの面積は約三二㎡。これがアメリカだと六六㎡で二倍になるしフランスは四七㎡、イギリスは四三㎡となりかなり広い。住宅の平均床面積は日本は九二㎡。対してアメリカは一五七㎡である。購入資金額も天地ほど違う▼英米なども日本の半分以下なのだそうだ。東京で百㎡規模のアパートだと高いのは一億円。サンパウロなら三千万円もあればお釣りがくる。バブル後、土地代は激安なのに家の高価格は続く。日本の勤め人の夢は「家を買うこと」らしいけれども、いささか情けない。そんな気がしないでもない。  (遯)

03/05/08

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