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高齢者福祉 各国日系共同体の実状(2)=米国・サンフランシスコ=住みにくくないが高額な費用=言葉や食事も問題

5月15日(木)

 サンフランシスコ・ダウンタウンから地下鉄で約三十分南東へ行くとヘイワード駅がある。そこから車で約五分の共同介護住宅「サイプレスハウス」を訪れた。この施設は日本でも話題になっている米国版グループホームである。現在の入居者は十二人で、十二人のスタッフが三交代で二十四時間、世話にあたる。
 サイプレスハウスを初めて訪れた印象はその明るさだった。入居者は二人一部屋で生活するが、部屋の壁には思い思いに写真などが張ってあり、その雰囲気はまるで自宅にいるような感じであった。訪問した時はちょうど夕食の最中で、刺身などの日本食を満足そうな顔で食べる入居者たちの顔が印象的だった。
 同施設は日本から見学者や研修生なども受け入れており、そのユニークな存在に注目が集まっているが、どのような経緯でこの施設がつくられたのだろうか。サンフランシスコ周辺での日系の高齢者対策の歴史を見ながら考察してみよう。

土台は三世がつくった

 サンフランシスコ周辺での日系人高齢者対策の歴史は一九七〇年代にさかのぼる。第二次世界大戦後、強制収容所から帰ってきた日系人はコミュニティーの再建に奔走する。しかし、彼らの中には英語が不自由な人も多かった。年老いていくにつれて、言葉の問題や世間の世話になることを「恥」だと思う特有の文化の影響で積極的に社会保障の制度を申請しようとせず、貧しい生活を送る人が多くいた。
 そんな中、日系三世などの有志が困窮する彼らを助けるために立ち上がった。三世たちは一九七一年、イースト・ベイ(サンフランシスコ湾東)地域で社会福祉団体「湾東日系奉仕団」を、サンフランシスコ市内では現在の「気持会」の前身となる団体を結成し、給食を運んだり、本人に代わって社会保障の手続きを行うようになった。今ではこの二つの団体はサンフランシスコ周辺の日系高齢者にとって欠かすことのできない重要な団体として、食事の提供、病院での通訳、翻訳、ヘルパーのあっせんや高齢者施設の運営などのサービスを提供している。
 サイプレスホームも日系高齢者対策の一つとして日系の有志によって八四年につくられ、八六年に湾東日系奉仕団に買い取られた。当初は無認可で始まったが、九二年、カリフォルニア州から特別例外許可を受け、現在に至っている。
 では、次に米国の高齢者施設の概要はどのようになっているのかみてみよう。

米国の高齢者施設と日系の施設

 米国の高齢者施設は大まかには、病院を退院して入る施設で、看護婦や医師が常駐するスキルド・ナーシング・ファシリティー(Skilled Nursing Facilities)、看護婦などがいるもののより療養型施設のインターミディエイト・ケア・ファシリティー(Intermediate Care Facilities)、日本のグループホームにあたるボード・アンド・ケア・ホーム(Board and Care Homes)、自立して生活できる人を対象にしたインディペンデント・リビング・ファシリティー(Independent Living Facilities)の四種類に分けられる。
 一般に米国での医療費が高いことはよく知られているが、高齢者施設もその多くが営利を目的とした団体によって運営されている。そのため、サンフランシスコ市内のスキルド・ナーシング・ファシリティーに入るには月額六千ドルから八千ドル必要だとも言われている。米国の高齢者施設の問題の一つは高額な費用のようだ。
 さらに、米国の高齢者施設事情の中で日系人特有の問題は言葉と食事と言われる。サイプレスホームのプログラムディレクター、福泉正博さんによると、同施設を含めた日系の高齢者施設の特徴は日本語と日本食ではないかという。サイプレスホームの入居者のなかには、米国人の運営する施設で、食事が合わなかった人や米国人とうまくコミュニケーションをすることができずに施設を移った人も少なくないという。

費用は高いが住みにくくはない

 医療費をはじめ高齢者を取り巻く費用がかかる米国。しかし、六五歳以上を対象にした高齢者・障害者医療保険(メディケア)や低所得者公的医療保険(メディケイド)などの制度を有効に利用することによって生活を維持していくことは可能なようだ。サイプレスホームの入居者でもメディケイドを利用しながら生活する人もいて、自己責任だけではない米国の意外な顔を見ることもできる。
 また、サイプレスホームをはじめとする日系コミュニティーでの高齢者施設では自身の文化的背景を大切にした施策も取られており、最後まで自分らしく生きようとする人たちと、決して暮らしにくくない生活がそこにはあった。【日米タイムズ・和田尚】

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(1)=カナダ、バンクーバー=ケア付き住宅「日系ホーム」=入居者へ細やかな気配り

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(2)=米国・サンフランシスコ=住みにくくないが高額な費用=言葉や食事も問題

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(3)=米国・シアトル=ホーム「敬老」に高い評価=入居者家族の信頼も厚く

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(4)=アルゼンチン・ブエノスアイレス=必要叫ばれて10数年=十分といえない対策

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(5)終=パラグアイ・アスンシオン=65歳以上は平均14%=まだ若い日系社会 問題はこれから

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