ホーム | 連載 | 2003年 | 高齢者福祉 各国日系共同体の実状 | 高齢者福祉 各国日系共同体の実状(3)=米国・シアトル=ホーム「敬老」に高い評価=入居者家族の信頼も厚く

高齢者福祉 各国日系共同体の実状(3)=米国・シアトル=ホーム「敬老」に高い評価=入居者家族の信頼も厚く

5月16日(金)

 日系移民の歴史が最も古い地域のひとつに数えられるワシントン州シアトル市では、非営利団体「日系コンサーンズ(Nikkei Concerns)」を中心に日系高齢者の総合的援助が推進されている。
 同団体は老いつつある日系一世たちを案じた二世の有志七人(赤井グレン、門島ハリー、風間サリー、森口富雄、岡本トシ、高江須フレッド、宮武ヘンリー《敬称略》)が一九七五年、日系人が安心して老後を過ごせる介護提供の施設の提供を目指して「一世コンサーンズ」を発足させたのが起源。日系コミュニティーから寄付を募り、七六年にナーシング・ホーム「シアトル敬老」(以下「敬老」)がシアトル市南部、旧日本人町に設立された。
 ゆくゆくは二世の老後も考えなくてはならないため、「一世コンサーンズ」は名称を現在の「日系コンサーンズ」に変更。七八年には在宅高齢者のためのデイケア「心会」を立ち上げ、九〇年に生涯教育講座「日系ホライズン」、九六年に高齢者と幼児の触れ合いと文化の多様性を柱とする保養所「Keiro Intergenerational Day Care」、九八年に高齢者ケアハウス・アパート「日系マナー」と、文化的・社会的生活を援助するサービスを次々と提供してきた。また、二〇〇二年には日系コンサーンズが全額出資した子会社「NCエンタープライズ」社による高齢者用コンドミニアム「みどりコンドミニアム」も完成。これらは全てシアトル市ダウンタウン周辺に位置しており、自分に合った施設やサービスを選ぶことができる。
 中でも「敬老」は、昨年十一月に米国保健社会福祉省の老齢者医療保険局(CMS)が発表したシアトル地域の介護施設の相対評価レポートで高い評価を得た。
 同評価は施設入居志望者に介護施設の質・特徴を伝える目的で、十年前から開始。今回のワシントン州シアトルの評価では、同地域内の介護施設の中から大規模の五十施設をCMSが選び、①入居者の床ずれ②日常生活に手助けが必要な入居者③痛みを訴える入居者の手当ての待ち時間が長期にわたったこと、の三つの項目から割合を算出した。「敬老」の今回の調査結果は、①五%②九%、③九%だった。
 ①の調査項目である床ずれの割合は、介護の必要な入居者、逆に施設内で催されているアクティビティーに参加できる入居者がどの程度の割合を占めるかを表している。シアトル地域五十施設の平均は九%だった。
 ②の調査では一人で食事が取れるか、椅子から椅子へ移動できるか、ベッドからの移動が可能か、洗面所へ一人で出かけられるか、などの基準から判断し、日常生活で何らかの手助けを必要としている入居者の割合を算出。シアトル地域の平均値は一六%で、九%の「敬老」は上位十一位のひとつだった。③の長期入居の割合では、最大が四〇%だったのに対し敬老は九%(平均は一三%)と貢献。迅速な看護を示している。
 八七年に百五十人が入居可能な施設が完成した「敬老」には現在、フルタイム、パートタイムを合わせて約百八十人の職員が勤務。コミュニティーからも様々な人がボランティアでお年寄りの話し相手をしたり、歌を一緒に歌ったり、ボール投げ、輪投げなどの遊戯の相手をしに訪れている。「敬老」所長のリック・ヘンリーさんは、「彼らのおかげで入居者の楽しみは増え、ここは過ごしやすい場となっています」とボランティアへの感謝の気持ちを表す。
 入居者平均年齢八十三歳の同施設には九十歳以上のお年寄りも男女合わせて二十六人。日系以外にもアジア系を中心とした人々が入居しており、ひとりひとりの健康に合わせた献立の食事を配膳するなど、完全看護のサービスに入居者の家族の信頼も厚い。日系の入居者が多いこともあって、七夕や夏祭りなど日本になじみ深いアクティビティーも随時開催。ある入居者の家族は、「住んでいる人の友人や知人が時々訪れて声をかけてきてれます。意外にもこのような古い友人や知人に出会えることに彼らは喜んでいるようです」と語り、コミュニティーに密接した同施設ならではの良さをうかがわせた。
 同施設に一年前から入居しているというエミコ・オードネズさんは、「ここはとてもいいですよ。皆さん良くしているし。呼び鈴を鳴らすと二十四時間いつでも飛んできてくれます。歌やその他の催し物に参加するのが毎回楽しみなんですよ」と語った。
 昨年八月に同ハウスを表敬訪問した潮谷義子 熊本県知事は同施設の掃除が行き届き、消毒薬や汚物の臭いがしない点に注目した。「臭いがしないということは、ケアの高さを示していてすばらしい」と潮谷知事は語り、衛生面での評価も高い。

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(1)=カナダ、バンクーバー=ケア付き住宅「日系ホーム」=入居者へ細やかな気配り

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(2)=米国・サンフランシスコ=住みにくくないが高額な費用=言葉や食事も問題

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(3)=米国・シアトル=ホーム「敬老」に高い評価=入居者家族の信頼も厚く

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(4)=アルゼンチン・ブエノスアイレス=必要叫ばれて10数年=十分といえない対策

■高齢者福祉 各国日系共同体の実状(5)終=パラグアイ・アスンシオン=65歳以上は平均14%=まだ若い日系社会 問題はこれから

image_print