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コラム 樹海

 東大の山本良一教授が編集した「1秒の世界」という本によると、このちょっとした短い時間に世界中の鶏が三万三千個の卵を産むそうだ。中国では畳四十八枚分の土地が砂漠化し、宇宙では七十九個の星がその生涯を終えているとも書かれているという。こういう見方をすると、1秒が持つ長さと重みが何となく実感できるような気がするから不思議なものだ▼時間の捉え方を山本教授のようにすると、一時間や一年の持つ意味がまったく違ってくる。百年前のサンパウロ市内には鹿がいたそうだし、お茶の水橋の下には川が流れていたと説明しても今頃は納得する人も珍しい。サンパウロは来年一月に市制四百五十年祭を迎える。市も民間もその準備に追われているのだが、四百五十年の歳月はやはり長い▼なにしろ―。種ヶ島に漂着したポルトガル船が鉄砲と火薬を日本に伝えた頃の話である。今や一千万人を超す巨大都市となったけれども、この街は長く「農村都市」として生き続けてきたという記憶も消えようとしている。近代都市に生まれ変わったのはこの五十年と見てもいい。パウリスタ大通りにしてもビル街になったのは七十年代からであり、その前は大邸宅が軒を連ねていた▼あの四百年祭のときには日系コロニアも日本館を造るなどして協力したのも懐かしいのだが、四百五十年祭には余り手助けもしないらしい。これも「一世の日本人移民の時代」から二世や三世・四世が主流の「日系社会」に変わってきた「証」と見るべきなのだろうけれども―。   (遯)

03/12/09

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