樹海

 田母神俊雄講演会は実に盛況だった。最後方に座った聴衆が、台所でカフェの用意をしている若者の話し声がうるさいと何度も注意し、一言も漏らさずに聞き取ろうと熱い視線を注いでいる真剣さに胸を打たれた▼往時のコロニアの雰囲気を思わせる熱気がこもっていたといえば言い過ぎか。移民が祖国のことをどれほど強く気にかけているかが伺われる雰囲気だった▼田母神さんがいう「日本は諜報能力が低い。10倍投資しないとドイツ、フランスなみにならない。もっと情報収集しないと外交的な動きの裏がとれない」との言葉には思わず膝を叩いた。日本の日本人には性善説を信じるお人よしが多い。ウソを悪いと思わない考え方を基礎とし、権謀術数が渦巻く西洋社会の日常が理解できない性向を感じる▼例えば当地で、役所の窓口や店員が言う説明を100%信用する人がどれだけいるか。ガルボン街の排水溝工事しかりだ。連邦政府が保証したにも関わらず、致命的に遅れているW杯サッカー場工事やその周りの交通機関整備を見ても一目瞭然だ▼ロナウドが「建設遅延が恥ずかしい」と発言したのに対し、ジウマ大統領らが「何を恥ずかしがる必要があるか」と真っ向から否定した。その態度から読み取れるのは「予定がずれるのは当たり前。理由があれば遅れるのは正当」という論理だ▼納期遅れなど考えられない日本では通じない論理だ。むしろ日本の〃常識〃の方が世界においては普通ではない。日本代表が泊まるイトゥーのホテル新棟の出来具合が楽しみだ。日本代表が到着した時に未完成だったら…。ここでも日本の〃諜報能力〃が試されている。(深)

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