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白と黒の芸術、この国に=切り絵作家の森本隆さん=「プロを育てたい」

4月24日(土)

 奈良県人会で今月初めまでの約八ヶ月間開かれていた切り絵教室は、老若男女問わず日系人が参加し好評だった。指導に当たったのは、ブラジルにおける切り絵のパイオニア、森本隆さん(五九)だ。
 六〇年に両親に連れられて渡伯した森本さんは、デカセギ派遣会社の支社長として九一年から日本に滞在した際、「何か日本文化をブラジルに伝えたい」と切り絵を学び始めた。
 切り絵界の第一任者である日本剪画協会の石田良介会長に師事。その後、研鑚を積み、昨年は日本フェスティバル会場でも作品を展示した。
 切り絵は「白と黒の芸術」と森本さん。この二色がベースとなり、日本的な風情が醸し出されるが、剪画(せんが)とも呼ばれ、カラフルなものも多い。
 元絵と呼ばれる下絵をプリズマ紙(黒の美術用専門紙で、切っても中の白が出ない)にあてがい、カッターでていねいに切り抜いてゆく。裏から和紙や千代紙、折り紙などを張り付けると、プリズマ紙の黒がそれらを縁取り、色彩豊かに際立たせる。
 近年では技術の向上で芸術の域にまで高められ、切り絵の描き出す世界は無限の表現力を秘めている。
 森本さんの夢は切り絵の学校を作ることだ。リベルダーデ区にある『ESCOLA・PROTEC』で宣伝デザインを学び、十五年間ブラジル松下電器の宣伝課で広告デザインナーとして働いた経験を生かして「プロの切り絵作家を育てたい」と意気込む。 
 切り絵という日本の伝統的な技法を用いてブラジルを表現することもできる。例えば、森本さんが「私が最も大好きな場所」と言って見せてくれた「パウリスタ大通り」の作品は、切り絵という日本の文化を使ってブラジルの風景を描いたものだ。
 「ゆくゆくは、ブラジル人が日本で切り絵の個展を開くようになったらおもしろい」。森本さんは言う。日系社会だけでなく、ブラジル人にも普及したい、と。切り絵を使って外国の人が自分の感性を表現できるようになれば、切り絵は世界的な文化となる。
 「自分は今後、ブラジル的な作品を中心に作って行きたい。サンバ、サッカー、サンパウロの露店商といった題材でね」
 森本さんは切り絵教室を開いたり、自分の作品を売ることによって生計を立てているが「不景気だから、なかなか売れない」と森本さん。そう言って笑うその視線の先には、それでも続けていくという、切り絵に賭ける情熱の片鱗がうかがわれた。
 切り絵教室など問い合わせは電話11・4109・7484(森本)

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