4月30日(水)
【東京支社】〇五年秋放映予定のNHK開局八十年記念ドラマ「ハルとナツ」のブラジル・ロケが、いよいよ日本のゴールデンウィーク明けから始まるのを受け、二十八日午後、NHKスタジオで記者会見があった。会見には脚本家の橋田壽賀子さん、主役のハルを演じる女優の米倉涼子さん、森光子さんら主な出演者のほか、プロデューサー、演出家も出席。「生きる素晴らしさを演じられたら」と、米倉さんが感涙する場面もみられた。
七十周年「大地の子」、七十五周年「菜の花の沖」に続くこの記念ドラマは、ブラジルと日本で生きた二人の姉妹を主人公に「日本」と「日本人のあり方」を問いかける。全五回(第一回九十分/第二回~第五回・七十五分)の、壮大なスケールでブラジル移民史が描かれるという。
NHKが誕生したのは一九二五(大正十四)年三月二十二日、橋田さんも同年五月十日に生まれた。NHKと橋田壽賀子さんは同年齢で、橋田さんにとっても因縁深い作品となる。
企画にあたったNHKプロデューサー、金澤宏次さんは会見で「国家や時代の波に翻弄された人間の運命を描きたいと考え、大きくて深みのある作品を求めていた。ブラジルだから、移民だから、家族の絆がより大切で一層強まるので考え、たどり着いたのがこのドラマ」と語った。
世界六十ヵ国・地域で放映され感動を呼んだNHKドラマ「おしん」を執筆するときから橋田さんは、ブラジル移民を描く宿命にあったという。おしんが酒田(山形県)へ奉公に出された折も両親(伊東四郎・泉ピン子)は一家でブラジルに移民するか、大いに悩んだ結果、おしん一人が奉公に出されている。
【作家、出演者、制作・演出家の会見での声】
●制作者・阿部康彦プロデューサー
「魅力的で豪華な作者・出演者を揃えることが出来たのは記念番組ならでは。スケールの大きなドラマに仕上げるつもり。二人の女性の七十年を描く中で、『今の日本人というのは何だろうか』がテーマ。日本とブラジル、現代と過去を対比する中で日本が見えてくる。ブラジルを描くことによって日本を見、過去を描くことによって現代が見える」
「五月二十三日にブラジルでクランクインし、一年以上撮影を続ける。ブラジル、北海道において地元の方々と深い連携して進めたい。北海道の新得町、別海町では準備が整えられている。別海町は酪農の町。戦前の牛は角がないことに気がつき、角のない牛を探してもらっている。ブラジルにおいては、三菱・岩崎家が古くから所有する東山農場をはじめ、多くの日系人のご協力を頂いている。ブラジル日本文化協会が支援会を立ち上げてくれた。エキストラも募集していただき、サンパウロ市だけで七百人以上の申し込みがあった」
●脚本家、橋田さん
「金澤さんに書きなさいといわれその気になったが、その膨大な資料を見て驚いた。女の人の歴史が書けるということは、もしかしたらもう一生ないかも知れないと思った。私にとって最後のチャンスではないかという気がして、その膨大な資料を二ヶ月ぐらいかけて読んだ。何を拾って、どういうドラマを残して、生かしていくかということがものすごく難しい。読んでいくうちにブラジルだけを書いているのでは、日本で見ている方には、おそらくいつの時代かわからないのではないか、と思った。それではブラジルがこういう時に日本人はこうだったという相関性をもたせて時代を書いていけばいいのでは、と考えた。そのため主役も二人になった。作品を書きながら『もの書きというのは、何を書くべきか』”と反省させていただいた作品となった」
●ハル役、米倉さん
「橋田さんの『おしん』のビデオを勉強のため毎日見て、涙を流している。森さんの『放浪紀』を見て生きる素晴らしさを教えていただいた。そんな女性を演じられたらいいなと思っている。私一人だけブラジルで一ヵ月間の長期ロケとなる。申しわけないと思ったがこのお話をいただくまで、ブラジルへ移民をしていた方々のことを私はほとんど知らなかった。橋田先生の作品に出会い、私たち日本人が見逃してはいけない歴史とかかわりあうことが出来て本当にありがたい。私の知人にバスガイドをしていた人がいた。ドラマの話をしたら、移民された方々が、最後の思い出づくりに、と来日し三ヶ月ほど日本中をまわられたときのことを話をしてくれた。そうしたら橋田先生の作品と同じで驚いた。その方々が私の中に甦ってきたような感じがする。ハルは非常にタフな女性で、前向き、一生懸命に土を踏んで生きる女性。そのような女性になって日本に帰ってこられたらいいな、と」
●ハルの老後役、森さん。
「私は日本人移民七十周年記念という年にブラジルに参りまして、いろんな取材をさせていただいたこともある。橋田先生より私は年上。あの日本のつらかった時代を耐えてきた。忘れたいと思った戦争時代、戦後時代を経験している。忘れたいと思ったせいか、ちょっと忘れたところも。でも本当は忘れてはいけないと思う。ドラマでもう一度あの頃のことを思い出したい。身長は(背の高い)米倉さんとどれくらい差があるかしら。ハルは、あの時代は食べ物もなかったのに、すくすくに伸びて気持ちいいほどの日本女性。ドラマで平和のありがたさを噛み締めたい」
●演出・佐藤峰世さん
「この物語では昭和九年から現代までの七十年間、ブラジルに渡ったある家族の歴史が三世代にわたって描かれるが、それだけではない。日本に残された妹が設定されている。ブラジルの七十年と日本の七十年の物語が姉と妹を中心に展開される。届かなかった互いの手紙が見つかり、姉妹はそれぞれの手紙にかかれた内容を読み、それぞれの過ぎ去った生活と願いと生き方を理解し、再会が果たされる。ブラジル各地で取材時に出会った日系の老人たちを思い浮かべて、ブラジルの自然や人を愛しながら、ブラジルの撮影に取り掛かる。ブラジルの日系人は明るく、人生を楽しむ術をよく知っている。この作品が日本とブラジルを繋ぐ新しい橋の一部分になれたら、とても嬉しく思う」