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松野さんの遺産=ロンドニア州で植林に取り組む

6月10日(木)

 大分県出身の松野克彦さん(65)がロンドニア州トレーゼ・デ・セテンブロ(旧グァポレ)移住地で本格的な植林に取り組んでいる。十五歳だった克彦少年は五十年前に両親に連れられてグァポレに移住してきた。当時、グァポレは連邦直轄州だった。
 この年(一九五四年)の七月二十二日、グァポレ直轄州の要請で、二十九家族百八十名が日本人移民として初めて入植した。
 グァレポ(現ロンドニア)州にはこれが最初で最後の日本人入植者となったが、州知事をはじめ州民がこぞって日本人の入植を歓迎した。直轄州となった記念すべき日が九月十三日だったことにちなんで、日本人移住地を「トレーゼ・デ・セテンブロ」と命名した事実が歓迎ぶりを物語っている。
 州政府は、日本人によるゴム栽培を期待したが、その後の州政府の不適切な内部調整と強酸性土壌(pH三・五~四・O)などの理由で、移住者の努力が報われることなく、ゴム栽培は不調に終わった。
 青年となった克彦さんは一九六〇年に養鶏を始めた。鶏糞で地力の増強をはかることが目的だったが、州都ポルト・ベーリョをはじめ州内では鶏卵の供給が非常に不足していたため、需要に乗って養鶏が軌道に乗った。現在は一万羽を飼育している。
 当初の移住者でトレーゼ・デ・セテンブロに残って養鶏を行っているのは松野さんだけだ。ヒナはサンパウロ州モジ・ダス・クルーゼス市の日系農家から購入している。最近は大規模養鶏業者がロンドニア州に進出してきているが、松野養鶏場の卵は新鮮で安心できる、と市場で評判が定着しているので、「大規模業者に負けることはない」と自信を示している。
 移住地が州都から十キロちょっとと近い距離にあることも強みだ。移住して五十年、松野さんは、次世代や次次世代に残せる遺産の一つが豊かな自然であるを考えるようになり、二〇〇二年から本格的に植林に取り組み始めた。
 「ここ(ロンドニア州)には自然林がいっぱいあるのに、なぜ植林か、と聞かれるが、次の次の世代のことを考えると、いま木を植えなければならない」と心境を語る。
 植林を始めたばかりなので、昨年は千七百本、今年は四千七百本を植える準備をしている。徐々に本数を増やしていく考えだ。植えている樹種はチーク(テッカ)、マホガニー(モギノ・アフリカーノ)を主流に数種だ。
 州政府は五〇%の補助金を提供して植林を奨励しているが、まだまだ植林は進んでいないようだ。植林は短期収益につながらないため、松野さんは養鶏で生活を支えながら、未来を見つめている。

 半世紀をかけてアマゾンの奥地で培ってきた〃ジャポネス・ガランチード〃が州民の意識の中に、植林の分野でも浸透することを期待したい。松野さんは口数が少ないが、不言実行型で人望があり、一九九九年にトレーゼ・デ・セテンプロ文化協会会長に推挙され、今も日系コロニアの中核としての役割も担っている。
 

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