ホーム | 日系社会ニュース | アテネ五輪迎えて 52年前ヘルシンキ大会ブラジル水泳界に初メダル=岡本テツオさん(72歳)懐古 「大和魂見せよう」と泳いだ=〃金銭〃にはつながらなかった=「今の選手は恵まれている」=新人の台頭を期待

アテネ五輪迎えて 52年前ヘルシンキ大会ブラジル水泳界に初メダル=岡本テツオさん(72歳)懐古 「大和魂見せよう」と泳いだ=〃金銭〃にはつながらなかった=「今の選手は恵まれている」=新人の台頭を期待

8月14日(土)

  ブラジル水泳界に初めてのメダルをもたらした日系二世、岡本テツオ(72)さんは、十三日から始まったアテネ・オリンピックでは「次の北京大会につながるような新人の活躍に期待したい」と語った。かつて「大和魂を見せてから死ね」と言われて死に物狂いで泳いで得た銅メダルだが、それが金銭的な利益につながることはなかった。「今の選手は恵まれているよ」といいながら、五十二年前の快挙を振り返ってくれた。
 岡本テツオさんは、一九五二年のへルシンキ大会の千五百メートル自由形で、ブラジル水泳界に初めてメダルをもたらした。
 同自由形の一位は日系アメリカ人コーノ・フォード、二位は日本の橋爪四郎そして三位に岡本さんが入り、国旗はそれぞれ違うが、日系人が表彰台を独占、ずいぶんと各国の新聞に話題を提供した。
 岡本さん両親は北海道出身、測量士の父仙太郎さんと福岡県出身の母ツヨカさんの三男、末っ子として三二年、サンパウロ州マリリア市に生まれた。体が弱くて小児ゼンソクだった岡本さんは、父の奨めで七歳のときに水泳を始めた。
 子どもの頃、タイル張りのプールなど田舎にはなく、小川をせき止めて造ったもので、カエルがよく泳いでいたという。泳ぎ出すとすぐに濁ってしまい、目を開けても水中では何も見えなかった。
 水泳が上手くなるにつれ、勝つ面白さを覚えたのか、メキメキと頭角を現した。十四歳の時には、サンパウロ市で行われた全伯大会にも出場するまでになっていた。
 その当時、敗戦直後の日本から古橋広之進が、四七年に四百メートル自由形で世界記録を連発して「フジヤマのとびうお」として世界中に知られていたが、四八年のロンドン・オリンピック大会には、敗戦国の参加は許されなかった。
 五〇年に米国に招待された日本の水泳団、古橋選手、橋爪選手らの一行は、帰途にブラジル・スポーツ省の招待で、沈み切っている日系社会の慰問に来た。
 ブラジル代表になっていた十八歳の岡本さんは、日本選手と一緒に二カ月間、サンパウロ市、サンパウロ州地方部やロンドリーナなど、日系人が多く住んでいる町へ親善競技会に回った。各地ではオープン・カーでパレード、一行にお土産を渡すのに行列ができるほど歓待された。
 それまでは一日に一キロメートルの練習しかしていなかったが、古橋さんから最低十キロメートルは泳ぐようにアドバイスされ、その通り実行したら記録を伸ばすことができた。
 翌年のブエノス・アイレスのパン・アメリカン大会で、四百メートル自由形と千五百メートル自由形で金メダル、八百メートル・メドレーで銀メダルを獲得した。当時、日系人が新聞に載ることなどほとんどなかったので、コロニアでは有名人になった。
 五二年のヘルシンキ大会では四百メートル自由形と千五百メートル自由形に出場した。四百メートルでは準決勝で失格。それまで順調に予選を突破してきたおごりで、手を抜いたために決勝に進めなかった。
 その悔しさをバネに千五百メートルでは四番目のタイムで決勝に進んだ。
 そして決勝では、最後の五十メートルのターンをした時、少し前を泳いでいる「影」を抜かない限りメダルはないと思った。苦しくて卒倒しそうだったが、「お前はサムライの子孫だ。大和魂をみせてから死ね」という親父の声が聞こえて来た。もう死んでもよいと、無我夢中で泳いでゴールにタッチした瞬間、頭上の大会役員であるブラジル人から三位入賞を知らされた。その時は嬉しさのあまり頭が真っ白になり、涙を流していた。
 帰国後、マリリアでは盛大に凱旋パレードなどをしてもらって、英雄扱いを受けた。しかし大学のないマリリアでは勉強できないのでサンパウロにでた。
 米国留学後は、サンパウロ市で日系の味の素や米国系企業など会社勤めなどもしたが、七六年に同じくサンパウロ市で、地下水開発・ボーリング会社を設立し、今も大サンパウロ圏内を中心に活動している。
 今でも独身の岡本さんは「あの当時は、メダルを獲得しても、コマーシャルに出ることもなく、今と違って、お金にはならなかった。逆にスポーツマンは仕事もしないバガブンドと思われていた。しかし水泳のお陰でいろいろな国にも行けたし、一時は英雄にもなったし、いい夢を見させてもらいました。今でも水に関連した仕事をしており、まあ結婚しなかった私には、水が女房みたいなものですね」と屈託なく笑った。

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