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元ガリンペイロの追憶(下)=殺人日常茶飯事の町セスナでリンゴを買いに

2月19日(土)

 まあ、潜水夫のなかでもよく金脈当てるやつっていうのがいるんだよ。度胸のある奴。一回潜ったら一、二時間は上がってこない。そういうのはバイアーノが多かったね。
 取り分は六・四で潜水夫が六取るんだよね。まあ量にもよるけど当時、二回当てたら車一台買えるっていう程度、その潜水夫が。いや、そんなもんって言うけど大金よ、彼らにとっちゃ。ま、正直、安い命だよね。何回も当てたやつもいるけど、その金で何か他の仕事するっていうのは彼らの発想にはない。当てた、使う、また潜るって感じね。 
 そんな死と背中合わせの仕事してるから、命の感覚っていうのが、僕らと全然違うのね。人殺すっていうのも平気。だから、殺人も日常茶飯事だったよ。
 パーンって銃声がして、行ってみると人が倒れてる。もう、しょっちゅうだから、誰もかまわない。運が悪いっていうか、危険かどうかっていう状況を見極められなかったやつ、しょうがないって感じね。僕も一回(足の銃痕を見せながら)危なかったけどね。
 ま、よく当てるって評判のやつに僕らも頼むの。どっか女んとこや飲み屋にいるところを引っ張ってきて、「潜ってくれ」って。すると、川に足をチャプチャプつけながら「うーん、今日は気が乗らない」とか「天気が悪い」とかグズグズいうの。さすがに彼らも自分が死ぬのは怖いんだよ。もちろん、僕らも強制はできないよね、死ぬ可能性のほうが高いんだから。半分「死ね」って言ってるみたいなもんだもんね。
 なだめて、すかしてね。一度、そいつが「リンゴが食べたい」って言い出してね。そこにはないの、リンゴ。しょうがないから、川に止まれる飛行機、ほら、水上セスナで近くの町まで買いにいったことがあるよ。
 まあもっとも、後からはもっと大きな船、三百平方米くらいかな、を買ってクレーン使ってやってたよ。
大体、五人から八人いるエンプレガードも住まわせてね、家とかもあるわけ、その船の上に。女郎も三人住まわせてたよね(笑)
 で、船を移動させながら金を探すんだけど、滝がいくつかあるわけ。そこをその大きな船で下らなきゃいけない。下る方法はあるんだけど、その技術が分からない。しょうがないから、船をバラしてカミニョンで運ぼうってことになった。
 エンプレガードに「一週間で戻ってくるから、その間に船解体して積む準備をしとけ」って言って、僕はポルト・ヴェーリョにカミニョン探しに行ったのよ。でも、街に戻ると色々と用事が出来て結局、その滝のところへ戻ったのは、一カ月後だったの。
 そしたら、何をどうしたのか船が流れて滝に引っかかってるわけよ。ま、無理に滝を下らせようとしたんだろうね。何やってんだーって、言ってる目の前でその船、滝にドーンと落ちちゃった。で、終わり。
 ま、投資したくらいは儲けてトントンだったし、面白かったしね、そろそろ潮時かなって。家に帰るたび母親に「お前、人間の顔してない」って言われてたっていうのもあるけど。
 もっともその頃、金はあまり出なくなってた。そしたら、ポルト・ヴェーリョの人口もグッと減るんだよね。でも、まだ今でもやってる日本人いるよ。
 そろそろ、雨も上がったね。ここの雨はこんな感じよ。ダーっと一時間くらい降って止むの。さて、(マデイラ・マモレ)鉄道駅の方に行ってみましょうかー。

■元ガリンペイロの追憶(上)=金脈巡り撃ち合いも=文字通り、死と背中合せ


 

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