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母国の将来に1票投じよう=5度目の在外選挙=公館投票きょうから=日伯関係にも影響、関心を

2005年8月31日(水)

 今日から公館投票――。第四十四回衆議院総選挙が三十日に公示された。郵政民営化に端を発した今回の解散・総選挙。九月十一日の投票日に向かい、日本国内で熱い選挙戦が展開される。海外に暮らす邦人にとっては五度目の在外選挙。ここブラジルでも今日から、国内八公館で公館投票が始まる。在伯邦人にとっては、母国に先立って日本の将来に一票を投じる機会だ。中でも注目されるのは、海外最大の登録者を抱えるサンパウロ総領事館。日本の将来を占う上で重要な意味を持つ今回の選挙。どれだけ多くの声が海外から届くのか、有権者の動向が注目される。
 一年十ヶ月ぶりに実施される今回の衆院選。小泉総理による郵政法案反対議員の非公認や女性候補の擁立、反対派による新党設立など、今回の選挙は今までになく大きな関心を集めている。
 昨年来伯した小泉総理をはじめ、日伯議員連盟の橋本龍太郎会長の議員引退など、今回の選挙をめぐる報道には、ブラジル日系社会にゆかりの深い議員の名が挙がる。その結果が日伯関係にも影響を及ぼしかねないだけに、今選挙の趨勢はここブラジルの日系社会にとっても大きな関心事だ。
 共同通信が二十七、八両日に実施した世論調査によれば、比例代表で投票する政党は自民党が二九・七%、民主党が一八・三%。自民党三一・五%、民主党一五・二%だった前回調査(二十、二十一両日実施)と比べ、両党の差は約五ポイント縮まっているが、無党派層の動向もあわせ、今後の情勢は不透明だ。
 在外邦人にとっては二〇〇〇年の衆院選以来、五度目の在外選挙となる。郵便投票とあわせ、母国の投票日に先立って、世界各国で在外公館投票が実施される。
 外務省の統計によれば、現在の在外有権者数は約七十二万人。そのうち、実際に登録を済ませた人は約八万人程度と見られる。
 ここブラジルでも、昨年七月の参議院選挙から、国内全ての公館で在外公館投票が可能になった。
 中でも注目されるのが、国外最大の登録者を抱えるサンパウロ総領事館だ。
投票率アップに期待
 昨年の参議院選挙で、サンパウロ総領事館は初めて公館投票を実施した。当時の登録者数は一万一千六百五人。同館では当初、七千人が投票に訪れると予想していたが、結果は千九百九十九人。一七・二%の低投票率に終わった。
 それでも、二千の人が総領事館まで足を運んで投票したことの意味は大きい。低い投票率ではあるが、地区ごとに投票所が設置されている日本と一律に比べることはできないだろう。
 同館管内の登録者数は、八月現在で約一万一千八百八十人。今回の投票期間は四日間と、前回の九日間より短い。同じ数の有権者が投票に訪れたとしても、前回以上の混雑は十分予想できる。
投票所の準備は万端
 二度目の公館投票。サンパウロ総領事館では臨時職員五十人を配置、三十日には職員によるシミュレーションを実施するなど受け入れ準備を進めている。
 衆議院解散にともない、同館は管内の選挙人登録者一万一千八百五十四人にダイレクトメールを発送して選挙の実施を通知した。
 前回の選挙では、投票初日に、約二百七十人が総領事館を訪れた。今回は期間が短いこともあり、同館では最大で一日四百人の来訪を想定しているという。
 「サンパウロ管内の登録者は日本への関心も高く、真剣だと思います。前回(公館投票に)訪れた人は、今回も投票にいらっしゃると考えています」と、同館日系社会班の沖田豊穂領事。「現場としては、投票数が多くなることを見越して対応したい」と語る。
政党名だけ記入して
 「今回の衆議院議員選挙の投票は、前回の参議院議員選挙と異なり、立候補者名を書くことはできません。総領事館の投票所で受けとる(指定の)投票用紙には、必ず政党の名だけを書いてください」――サンパウロ総領事館の沖田豊穂日系社会班・選挙担当領事は、三十日午前、このように強調した。
 同総領事館(パウリスタ通り854、トップセンター)では、きょう三十一日から九月三日まで、午前九時半~午後五時、在外公館投票を受け付ける。ブラジリア大使館でも三日まで、他の公館では二日まで公館投票を実施する。
 記入用紙は、投票所での受付後、手渡される「衆議院比例代表選出議員の投票用紙」。この用紙の欄内に政党の名、あるいはその略称を「一つ」だけ書く。
 投票台には比例代表議員の候補者名を日本の各地方ブロック別に記した名簿が、ビニール袋に入れて閲覧できるよう備え付けているが、これはあくまで参考にするだけ。
 代理投票を希望する人には、代理投票補助者が対応する。
 待合室は、トップセンター中二階の映画館。パウリスタ通り側のビル入口で担当係が案内する。受付所は映画館の入口付近に設置される。歩行の困難な人等のため階下に仮受付所も設けられる。
 待合室の横には、サンパウロ日伯援護協会の協力により医師、看護師が待機するほか、緊急の場合に備え救急車も手配されている。
 投票所に持参するのは、既報のとおり、在外選挙人証(オリジナル)と身分証明書(旅券でもいい、オリジナル)である。
 また、「郵便投票のための投票用紙等」を取得したものの、まだ日本に投票用紙を郵送していない人は、「投票用紙等一式」を当日在外公館に返却することで公館投票が可能になる。
「投票に行きます」サンパウロ市有権者の声を聞く
 公館投票がきょうから始まる。郵便投票との併用が可能になって二度目の選挙。争点は自民、民主の「政権選択」と、小泉改革への評価だ。NHKニュースなどで母国の政局を見守る一世らはどう判断するか。「海外最大の票田」サンパウロの総領事館に「投票に行きます」と宣言する有権者の声を聞いた。
 「小泉さんの改革を支持したい。日本でも人気があるようだ。首相のやってやるという気持ちを買いたい」とは広島県出身の中西茂雄さん(85)。
 地元のベテラン、亀井静香議員は小泉首相に反旗を翻して離党、「国民新党」を立ち上げた。
 「残念なのは個人名で投票できないこと。できれば亀井さんに一票を投じたいんだけどねえ」
 来伯七十年になる。「一日だって日本のことは忘れたことがない。できるだけ日本に良くなって欲しいから投票に必ず行きます」
 後藤信子さん(62)も、「在外投票が認められてからは一度も欠かしていません」と話す。
 二十歳のときのことだ。人生で初めての選挙。投票所に行くと、選挙管理委員を務めていた亡父がいた。周囲の人に「娘もやっと選挙権を得て」と、喜んで自慢気に言っていたのを覚えている。以来、投票権の行使は大切だと思う。
 各界で活躍するエリート女性候補が目立つことについては、「女性の社会進出には拍手。だけど、判断材料にはならない」と意外にも冷静だった。
 「民主党はきれいごとばかりのような気がする」という磯部衛一さん(70)。同党の岡田克也党首は同じ三重県の出身だ。
 「県人会の年配の一世の方々は民主党に投票すると言っているけど」。友人の間では自民党の人気が高い。
 ブラジルに来て四十八年が経つ。「帰化もせずに生きてきたのだから投票は当然。前回は母親と家内も一緒に連れて行った」
 これまで在外選挙の広報に熱心だった県連。中沢宏一会長は「先に行なわれた日本祭りの後片付けで、今回はなかなか時間が取れなかった」と悔やみ、選挙ムードの盛り上がりが今ひとつであることを認める。
 ただ、「選挙権を有している方はぜひ投票を。できるだけ投票率を上げることが将来の権利拡大にもつながる」と呼びかける。

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