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現地社員に好かれよう=危機管理のプロに聞く=誘拐対策の基本

2005年12月06日(火)

 「現地社員を公正に扱うことが安全への一番の近道です」。ロンドンに本社のある世界最大の総合危機管理会社、コントロール・リスクス・グループ日本社(東京都)の山崎正晴社長(57、東京都出身)が来伯し、十一月三十日にニッケイ新聞との取材に応じた。
 同社は、七五年に各国の情報機関や軍特殊部隊出身者らが集まって、誘拐事件被害者を無事に戻すサポートをするためにはじまった。現在はグループ全体で五千三百社の顧客を持つ。山崎氏によって九二年に開設された日本社の顧客約四百社のうち、百社がブラジルに進出しており、現地サポート体制を強化している。今回はその打ち合せや説明会に来伯した。
 「誘拐事件などが起きたとき、企業の立場にたってよい結果がでるような総合的なアドバイスをします」。誘拐された社員をめぐって様々な利害が対立する。犯人はできるだけ少ないリスクで大金を手にしたい。そのためには被害者を殺してもかまわない。警察は被害者の生存よりも犯人逮捕を優先しがちであり、一般的に身代金を渡すことに否定的だ。社員を誘拐された会社は犯人逮捕より、大金を払ってでも社員の開放を優先する。
 この場合、最終的に企業側の利益なるような実践的なアドバイスをするには、専門的な経験と人脈、情報などが必要。「ロンドン本社には今までにグループが手がけた、世界百カ国などでおきた誘拐事件、約一千件以上のデータが集められている。ブラジルでも七五年頃から現在まであわせて、大きな事件だけで六十~七十件あります」。
 「一番大事なことは―」と山崎社長は強調する。「ブラジル人(社員や周辺住人)に好かれること。逆に『こんな奴のこと知るか』と思われたら、どんなことをやってもムダ。人間は確かにお金や地位でも動くが、最終的には気持ちです。そこのところを忘れたらどんな安全対策をやってもムダ」と断言する。
 ブラジル人社員を公正に扱っているか。「駐在員には防弾車を使わせるが、ブラジル人社員には『難しい』と考えている会社が多い。両者をまったく同じにする必要はないが、条件を明朗にし、みなが納得できるルールにする。そうすると、この会社に尽くしたいと思うようになる。当たり前のことだが、これができていない会社が多い」。
 逆に不平等感がつのると、そこから誘拐や脅迫につながる情報が漏れる危険が発生する。「我々の現場経験から段々と分かってきたことがあります。例えば誘拐が起きたとき、実は社内に権力闘争などの問題があって情報が漏れるケースがけっこうあるのです」。
 ブラジル人から好かれた場合、「最近周りで変な奴がかぎまわってる」という安全情報が集まる。「これが運命の分かれ道です」。
 同社は誘拐だけでなく、各種調査から、国際取引安全管理、総合テロ対策、海外赴任者研修、安全管理者養成、高危険度環境適応訓練、有事対応訓練なども行う。ブラジル社(サンパウロ市)に日語対応窓口(稲村明子)を設け、将来的には日本人駐在員も置く予定だ。
 来年四~六月には再来伯し、在留邦人対象の安全セミナーを開きたいと考えている。山崎社長は一日、コロンビア・ボゴタ社に向かった。

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