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コラム 樹海

 幕末の頃。西洋医学や外国語を学ぶ若い人々は「薬食い」と称して牛や豚を食べては喜んでいたらしい。あの頃は四つ足の動物は食べないの習慣があり、牛肉や豚肉を食膳に乗せるのは半ば禁止されていたから医学を勉強する若人の試食は大冒険と云っていい。若い学徒なので牛豚が「滋養豊富」なることも知る。恐らく明治になって流行する牛鍋やすき焼きも、こうした「薬食い」が起源なのかもしれない▼近ごろは、吉野家の「牛丼」が好評で客の行列ができるのも珍しくはない。訪日の折に試してみたが、その昔に東京・浅草の屋台で楽しんだのとは味も食材も異なるような気がした。今のは立派な牛肉が使ってあり、あの調味料が企業秘密だと耳にする。はっきりと記憶してはいないけれども、浅草の屋台は腸や胃袋などの内臓が主体であり、親父の説明では「ひと晩煮込む」であった▼長く鍋を火に掛けることで「うまさ」がじわじわとにじみ出るものらしい。ところが―である。今の「牛丼」にも、隠し事があって米国の牛でないとあの複雑な美味は生まれないそうである。豪州産は駄目なのだそうだ。多分、牛の品種もあろうし、牧草で育ったか大豆や玉蜀黍が入った濃厚飼料で肥育されたかの違いがあるのではないか。仙台の名物である「牛タン焼」も、米国産でないといけないらしい▼塩や味噌味の牛タン屋が100店を超すそうだが、肝心な牛タンがないために80%とかが休店したそうだが、政府がやっと米国産の牛肉再輸入を決めたので「牛丼屋」も「牛タン屋」も大喜びしているだろう。勿論、牛丼フアンやタン好きも。  (遯)

05/12/13

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