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もっと柔道メダリストを=「南米の講道館」が完成=草の根無償で設備充実=英才教育に拍車かかる

2006年3月28日(火)

 「南米の講道館」がサンパウロに完成した。石井千秋選手がブラジルに初めてメダルをもたらした一九七二年から先のアテネ・オリンピックまで計十二個を数え、国内スポーツとしては五番目のメダル数を誇る柔道――その存在は、日本移民の存在なくして語れない。二十四日に行われたイビラプエラ公園内の柔道オリンピック・アレーナ(専用道場)のイナウグラソンで、サンパウロ州スポーツ局のラルス・グラエル局長は「ここは南米柔道界の模範となるだろう」と賞賛した。ここは日本政府が「草の根文化無償資金」から七万五千ドルを支援し、パウリスタ柔道連盟が完成させた。
 「気をつけ」「礼」―。約三百畳の練習場には強化選手たち(十五~十八歳)約五十人が整列。日本語の合図に、全員が一斉に頭を下げた。レコルジTV局はニュースの中で当日の様子を生中継で伝えた。
 「日伯は柔道を通して、本当の出会いを謳歌した」。自身がメダリストでもあるグラエル局長(ヨット、銅二つ)は高い評価を与える。「メダル獲得において、柔道はすでに五大スポーツに入っている」。
 二十三日のパウリスタ・スポーツ賞でも特別賞を受賞した、八八年の金メダリスト、アウレリオ・ミゲルサンパウロ市議は「ボクの時代にもこんな練習場がほしかった。柔道専用の練習場はみんなの夢だった。実現できたのは、日本政府と先生たちのおかげ」と、全伯講道館柔道有段者会の岡野脩平会長、関根隆範さんらの名前をあげた。
 岡野会長から、西林万寿夫在聖総領事に感謝のプレートが贈られた。
 パウリスタ柔道連盟のフランシスコ・デ・カルヴァーリョ・フィーリョ会長は「ジュードッカ(柔道家)という日本文化の継承者であることは、お金に換算できない素晴らしい価値がある」とし、日本政府との協力関係は新しい段階に入ったと位置付けた。
 このオリンピック・アレーナは数年前まで、バレーの国際試合がある時は使えなくなり、円形体育館の屋上部屋で練習するなど専用ではなかった。練習のたびに畳を敷き詰め、戻す作業を繰り返していた。またコンクリートの床に直接畳を敷いていたので、打ち込み練習で身体を壊す危険性があり、今回、畳の下に緩衝材を入れ、常時四試合が同時にできる練習場になった。
 日本政府からの無償資金二十一万レアルに加え、同連盟が三十万レアルを投資して観覧席、更衣室、事務室なども設置した。同連盟のジョゼ・ロベルト・カナッサ副会長は、練習場横に日伯庭園もつくった。「素晴らしい庭だろう。和風、ブラジル風半々だ」と巨体を揺さぶり、うれしそうに語った。
 五月十一日から日本の男子強化選手団約二十人が来伯し、一週間の合宿をすることも決まっている。これ以外にも、南北アメリカ、欧州からも当道場で強化練習を予定している。
 「ここで大半のメダリストが生まれた。これからは、今まで以上に出るでしょう」。打ち込みに励む選手たちを見ながら、岡野会長は目を細めた。
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 【柔道英才教育】この道場では、州政府の協力をえて八六年から「Projeto Futuro」という英才教育が行われている。八四年銅メダルのワウテル・カルモナ選手ら若手柔道家が柔道一流国を目指して始めたプロジェクト。
 サンパウロ州各地の道場から選抜された十五~十八歳までの強化選手が、約二年間一緒に寝泊りしながら、平日の朝晩に二時間ずつ稽古を重ねている。夜の部には、近隣から百五十人も集まることも。週末は試合と、まさに柔道三昧の英才教育だ。
 指導者には日系人がちらほら見られるが、選手はほぼ全員が非日系人だ。昼間は州立学校に通い、州の合宿所に寝泊りする。柔道コーチの費用以外は州政府が負担する。学校の成績が悪くなると強化選手から外される、文武両道の厳しいシステムだ。

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