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アマゾン探検記――一戦後移民の体験――連載(6)=アンタ(獏)の防御の知恵=藪の中でも水中でも

2006年3月29日(水)

 シッポー・ダ・アグアを何本か切って飲んだが、ひどく乾いているので、少しものどの乾きは止まらない。
 そのうちにシッコが「これだ、これだ」と言いながら、スマウメイラ(カポックの木で直径二メートル以上の大木になる)の地上に出ている走り根を一メートルほど切り取った。縦にすると、ジャーッとばかり水が出る。飯盒いっぱいほどある。
 それでも乾きは止まらない。そこで水を捜すことにする。近くに干上がった川があり、その屈曲点にある低いところに、アンタ(貘)の糞がうず高く積もっている。それを掻き除いて井戸を掘る。例によって、二メートルくらいの腕くらいの太さの木を両側から削ったもので掘る。
 アンタの糞は馬の糞に似ている。色も形も、それにあまり臭くないのもよく似ている。同じ草食動物だからかもしれない。
 約五十センチほど掘り下げると、水が出てくる。さっそく飲もうとしたが、水と一緒に砂が吹き上がってくるので、飲むとジャリジャリしてどうもいけない。一計を案じて、かむっていた帽子(椰子の葉で編んである)を水の中にいれると、よい塩梅に水だけはいって、砂は濾過されてきれいになった。少々汗臭いが、水は上等である。飲めるだけ飲んで、水筒にも詰めて、また進み始める。
 しばらく行くと、林相は一変した。高い木は一本もない。中くらいの木がところどころにあって、一面にチリリカとタボカが生い茂っている。チリリカは禾本科の植物、多年生草木・半蔓性で、高さは二メートル以上になる。茎は三角形で葉は細長い。縁辺は細かい鋸(のこぎり)状になっていて、その鋭いこと、日本の茅の比ではない。ちょっと油断して手や腕が触れると、カミソリで切ったような傷を受ける。たまには骨に届くほどの切り傷を受けることもある。
 タボカは、竹科の植物でたくさん種類があって、もっと太いものもあるが、これは指くらいの太さで、高さは三メートルほど、日本の女竹に似ていて、もっと柔らかい。
 腰の刀を引き抜いて、バッタバッタと左右に切り開き、上にぶら下がっているのも切り落とす。お互いに蔓や葉をからませて、びっしりと生い茂っているチリリカとタボカの壁の中に穴を開けて進んでいるような塩梅である。
 用心して片手に又木を使い、片手で切って行くのだが、それでも両手とも小さな切り傷で血だらけになってしまった。
 しばらく行くと、いきなり十メートルくらい先から、なにやら物体が物凄い地響きを立てて駆け出した。アンタだ。これは、厚くて固い皮を持っているので、チリリカの中であろうと、棘だらけの薮であろうと、平気で駆け回る。おしまいにざぶんと水に飛び込む。そして、水の底をあるいてとんでもない所に出る。
 五分や十分くらいは平気で潜っているので、水の中に飛び込まれたら、まず捕まえる見込みはない。その上駆け回って川まで出る間、必ず何回か太い木の枝が横になっているところをすり抜ける。 
 これはオンサ(アメリカライオンのことで、南米産最大のネコ科の食肉獣である)に襲われたときの防御策でもある。オンサは必ず背中に飛び乗って首筋に食いつく。それでオンサを乗せたまま、木の下をすり抜けると、オンサは太い木の枝で、あっと言う間に、こさぎ落とされてしまう。その上、頭を強打されるので、さすがのオンサもグロッギーになって、追うのをあきらめてしまう。野生動物のみずからを護るための知恵を、なるほどと感心させられる。
 つづく (坂口成夫さん記)

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