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アマゾン探検記――一戦後移民の体験――連載(7)=川水のカルシウムの有無=下流で牛の成長に影響

2006年3月30日(木)

 続けて伐っていくと、五メートルから十メートル置きくらいに、踏み分けた小道のようなものがあり、それを横切る。アンタの通り道だとのことである。
 なお左右に何カ所も下草を押し倒して何かが寝転がったような跡がある。ヴィアード(鹿)の寝床だという。二時間ほど伐ってやっと切り抜ける。そして少々高い木々が茂っているところに出る。下草も少なく、割合楽である。
 クルマーの木がかなりある。この実は、雑食性の野獣が好んで食べる長径八センチ、短径三センチくらいの大きさで、約二ミリの厚さの甘渋い果肉につつまれている。中に固い殻、これを割ると中に核仁がある。これをよく乾燥したものは、商品として価値がある。芳香があって、煙草の香料にはなくてはならないものであり、抽出されたクマリンは血液の凝固を妨げる効果があり、医薬用としても用いられる。
 土地はあまりよろしくない。いわば半分痩せ地である。しばらく行くと、上り坂に当たる。上り口の近くの下草はほとんどアナナ・イーである。これは、野生のパイナップルで、葉も栽培種に比較して長い。ちょうど時期だったと見えて、拳(こぶし)大の実がいくつかなっていた。その中の赤く色づいているのを、皮を削って食べると、パイナップル特有のあの舌を荒らすような感じはなく、ただ甘酸っぱいだけ、それも甘みはかなり強く、かえって栽培種よりも美味しいくらいだ。腹がへっていたせいでもあろうか。
 高さにして十五~二十メートルくらいのところを上りつめると、下りになる。そこで意見は二つに分かれた。道を引き返して、明日また食料を持って出直そうというのと、もう下りだからイガラッペー・プレトまでそう遠くはあるまい、一挙に川まで行っても、今日中に帰りつけるのじゃなかろうか、の二つだ。
 結局、そのまま突き進むことにした。林相は下がるにつれて変わってきて、ちょうどイガポー(増水期浸水地)の林相となる。これは、雨季の盛りには水中林になってしまうところで、木の幹にも胸や腰の高さに、水に浸かったあとが見られる。樹高はあまり高くない。この分なら川に突き当たるのも遠くあるまい、と多寡をくくったのがいけなかった。行けども行けども同じような所ばかりである。
 何か大きな円を描いて堂々巡りをしているような感じである。しかし、一回通ったところは目印があり、すぐわかる仕組みになっているし、磁石で真北に進んでいて方向も間違いない。薄暗くなりかけたとき、やっと川辺にたどり着いた。
 イガラッペー・プレト(黒い川)の名のとおり、川底の石は真っ黒である。腰の短剣を抜いて、峰で「やっ」と叩くと二つに割れた。中は真っ白で、キラキラと細かく結晶が光っている。石灰岩だ。これで合点がいった。
 というのは、アレンケール・モンテ・アレグレの牛は、生まれて三年で親になる。上流に行って、パリンチンスやサン・ジョアキン辺りだと、親になるのに五年かかるという。この謎は石灰岩にある。これを洗って流れる川は、当然カルシウム分が多い。それでこの水に浸されるところの草はカルシウムを多く含んでいる。その草を食べる牛は成長が早い。しかもそのため肉が柔らかく、美味である。
 ベレン市に行ったときに、ゴヤス州あたりから来た牛の肉を食べたが、今までに旨い肉に慣れていたので、どうにも不味くて仕様がなかった。つづく (坂口成夫さん記)

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