ホーム | 日系社会ニュース | 「コロニア語は人類遺産」=日本の学術誌が特集組む=様々な視点で20人が分析

「コロニア語は人類遺産」=日本の学術誌が特集組む=様々な視点で20人が分析

2006年7月15日付け

 伝統の学術誌が「コロニア語」の特集を組んだ――。一九三六年に創刊された国文学の学術専門誌『解釈と鑑賞』(至文堂、千三百円)七月号で、「南米の日本人と日本語」の特集が組まれた。七十年以上続く伝統ある同誌で、南米移民の日本語が扱われたのは初めて。
 全二百三十二頁中、百九十一頁分が南米、そのほとんどがブラジルの日本語事情にさかれ、言語学、人類学、教育学などさまざまな視点から二十人が分析、論じている。
 宮島達夫氏(国立国語研究所名誉研究員)が昨年、サンパウロ大学(USP)に客員教授として赴任していたことから、南米の日本語に関心を持った。日本の学術界でほとんど知られていない現状に対し、多角的な分析を提示しようと今回の企画が出された。
 日本国内の方言と違ってコロニア語は、移住先である外国の社会的条件、文化・歴史的背景などの深い影響を受けながら、他言語と接触・変容している。
 特集の巻頭言には「この特集によって、海外移民社会における日本語に関する知見が拡がり、日本という国家やそこにおける日本語・国語問題を再考する契機となれば」との動機が説明されている。
 「ブラジルの日本人と日本語(教育)」という概説を執筆した森幸一USP教授はニッケイ新聞の取材に対し、「コロニア語は今保存しておかないと」と呼びかけ、「日本語のバリエーションとして貴重です。消滅期の言語といわれ、人類の遺産ともいえるのでは」とその価値を強調する。
 西成彦教授(立命館大学)は同特集に「ブラジルと日本語文学(概観)」を寄せ、東欧ユダヤ人社会と比較する独自の視点を披瀝する。同化の進む二世らを描くコロニア文学の現状を「ひたすら孤独をかみしめることになる老移民たち。一世文学としての日本語文学は、老境の文学へとかぎりなく傾倒していく」などと分析している。
 近年の日本で出版された日系ブラジル人が主役などをするハードボイルド小説まで概観し、大枠での文学史的素描を試みている。
 日本在住の日系二世の研究者、アンジェロ・イシさん(武蔵大学)による「在日ブラジル人メディアの新たな展開(ポルトガル語新聞からインターネットを活用した多言語メディアの時代へ)」では、ブラジル邦字紙から在日ポルトガル語新聞、IPC衛星放送、インターネット放送と最新動向を広く網羅している。
 「ブラジル日系社会における言語の実態」の中で中東靖恵教授(岡山大学)は、家庭内の言語がポ語に移り変わる様子からコロニア語の形成過程をさぐり、コロニア語が西日本方言をベースに形成されていった理由を分析している。
 加えて、大阪大学COEプログラム「ブラジル日系社会における言語の総合的研究および記録・保存事業」の成果の一端として、一世、二世、三世それぞれの代表的な談話を例示、具体的に分析が進められ分かりやすく説明されている。
 チリ、アルゼンチンの日本語についての論文も掲載されている。またエッセイ・コラムのコーナーもあり、移民の側からも力行会の永田久会長、ブラジルでの漫画アニメブームの仕掛け人の永田翼氏らが一文を寄せている。

image_print