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身近なアマゾン(1)――真の理解のために=20年間の自然増=6千万人はどこへ?=流入先の自然を汚染

2006年9月22日付け

 「アマゾン」をよく旅し、独自の「アマゾン観」を持つ松栄孝さんが、同地域を分りやすい解説をしてくれた。単なる解説ではない。「アマゾン」を愛してやまない松栄さんは、その変貌を憂えている。変貌は、自然の面でも、人的にも確実にすすんだ。今度の視点は「インディオ」「動物」「一日の中の四季」「侵す人たち」「開発の名の自然破壊」「保護」「未来」など。不定期に連載する。

 日本からブラジルへの移住が始まったのが一九〇八年、ということで、二〇〇八年はその歴史が百年目にあたるという記念すべき年となる。
 その百年の間に、かつては自然が主で人間が従であった人間と自然の関わりが、現在ではその位置が逆転してしまった状況がある。人間の文明が大半の自然を制してしまった感がある。
 奇特な人がいて、かつてあった原始林に挑んでみたい、と思っても、その原始林すらもうアマゾナス州と大西洋に面した海岸山脈にしか残っていないのが、現在のブラジルである。
 とくにアマゾン地方の開発にともなう変貌は、ここ十年、そこに暮す者にとっても大きな変化を感じる規模と速さで進んでいる。
 この連載は、九三年から〇四年までの足掛け十一年にわたり、日本の月刊の熱帯魚専門雑誌にアマゾンスペシャリストという称号を頂いて掲載された筆者の連載文を、今新たに見なおし、〇六年の現在状況を併せて加筆、構成しなおしたものである。
 筆者がアマゾン紀行を始めた八七年から〇六年まで足掛け二十年、アマゾン地方は非常にスローなペースであるが、確実に変貌つつある。ということを読者の皆様に認識いただき、併せて我々の知らないブラジルの広い地方で、どのようなことが過去にあって、今現在、どのように変遷しつつあるかを検証してみる材料になれば、と考えている。この点を本連載の主題としたい。
 八七年から現在まで、六千万人の人口増加がある。この増加した六千万人はどこに行ったのかを検証したとき、リオ、サンパウロという都市近郊に集中しつつあることもあげられるが、この人達の多くがアマゾナス州、パラ州、マットグロッソ州というアマゾン盆地の水の豊富な未開の地域に自然流入している、という現象が、現地をまわっていて強く感じられる。
 人間が生きていくのに最も必要とされる水、この水を求めた国内移住が盛んになり、それが奥地の自然破壊に確実に結びついている事実がある。この人間の流れは止められるものでもない。自然発生的に今後もアマゾン盆地を人間が侵食し続けることは確実で、彼らによる破壊、汚染によって今後も未開の自然が次々になくなってゆくことがと確実な事実となってゆくのだろう。
 特徴的な例をとってみる。アマゾン流域ではないが、筆者が十年前に初めて訪れたブラジルの東北部の乾燥地帯を流れるサンフランシスコ川である。ブラジルではアマゾンに次ぐ規模の大清流がミナス州、バイア州、ペルナンブッコ州を抜けて大西洋に注いでいる。
 筆者が訪れたその川の最上流の分水嶺地区は、キラキラ光るクリスタル水が流れるなんとも優雅な川で、十年前当時はその清流で二、三人の現地の奥さん方が洗濯と食器洗いに専念していた。これが小さな町の水場状態であったが、今年初めに何年かぶりに訪れた同じ場所には、数えて二十人以上が川原に並んで、化学洗剤垂れ流しの洗い物を熱心にやっており、クリスタルだった川の水が薄黒く淀んでおり、以前の面影が完全に消失していた。
 こんな状況で、筆者が目的としていた清流にゆらいでいた数種の水草も、その川では完全に絶滅していてる状況で、川に入ってみたら底質が目の細かい砂地であったものが、茶色のヘドロと変わっていたのには、驚きを感じてしまった。
 同じような現象がアマゾン川でもロンドニア州でもアクレ州でも平行して進んでいる現状がある。顕著でなくても汚染は確実に進んでいるようだ。
 暗い話題ばかりが先行したが、本連載ではアマゾンを旅して体験した、ちょっと変わった見方の話もある。清濁合わせた紀行文なので、読んでいただけたら幸いである。(松栄孝)
【筆者略歴】
 松栄 孝(まつえ たかし)
 兵庫県宝塚市出身、一九五〇年生まれ、七四年東京農業大学農業拓殖学科卒業、ブラジル国サンパウロに移住。〇六年現在もサンパウロ市内に在住し、ブラジル全域をまわっている。

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