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JICAボランティア リレーエッセイ=最前線から=連載(69)=松岡美幸=パラナ州パルマス日伯文化体育協会=実感した「同郷」のよしみ

2006年11月30日(木)

 ブラジルに着いた日のことを今でも思い出すことがある。
 赴任先はどんなところだろうか…。そこには、不安な表情の仲間たちがいた。きっと私も仲間の表情と同じだったに違いない。そんな時、「あなた、宮城県出身なんじゃない?!」という意外とも思える質問が私の耳に入ってきた。これが、県人会のKさんとの出会いである。
 「同郷」という繋がりだけで心を許せるなんて、日本にいる時には想像できなかったことだ。話をしているうちに不安な気持ちを隠しきれなくなった私の目には、知らず知らずのうちに涙が浮かんでいた。Kさんは、そんな私の気持ちを察してくださったのだろう。 帰る間際に、「松岡さん!! 県人会を自分の実家だと思ってサンパウロに来た時には遊びに来なさいね。待っているから」と言ってくださった。
 赴任当初、あの言葉にどれだけ励まされ勇気づけられたことか…。
 その後、県人会の宿舎に泊めていただく機会が度々あった。県人会には、慣れない土地で、たくさんの苦労を経験してきたはずなのに、愚痴っぽいことは何一つ言わず、おおらかに、そして豪快に笑う方がたくさんいる。
 そのような方々の話を聞きながら、私も時に笑い、時に「さんさ時雨」を一緒に口ずさんだ。どこの蒲鉾が一番おいしいとか、お正月の雑煮のだしは何が良いとか、同郷の者にしか分からない話で盛り上がった日もあった。
 私は、このように県人会とのかかわりを通じてたくさんの思い出ができた。中でも、サンパウロのリベルダーデで毎年開催されている七夕に参加することができたのは、忘れられない思い出のひとつになった。  願う内容によって、色が異なる短冊を真剣に選ぶ人たち。ある人は、平和を願う白を、ある人は恋愛成就を願う桃色の短冊を選び、竹に飾っていた。そこには日系人、ブラジル人といった国籍の違いはなかった。 わたしは風になびく短冊を見ながら、国を超えた目に見えない絆と希望を感じずにはいられなかった。
 ブラジルでは、日系人がその土地に暮らす他移民と共存し、絶大な尊敬と信頼を得て暮らしている。これほどまでに日系人が尊敬と信頼を受け暮らしている国が、他にあるだろうか…。 私はないと思う。
 日系人に対する尊敬と信頼。そしてそれを築き上げるまでの忍耐と苦労…。ブラジルに来るまでは、考えてもみなかったことだ。
 青年ボランティアとしての活動を終えようとしている今、私はこのような日系人の方々と同じ日本人の血が流れていることをとても誇りに思う。
 帰国後、私にできることは、ブラジル社会で学び経験したことを、後に続く人達に伝えていくことだと思う。それがこのブラジルでお世話になった方々へ、私ができる唯一の恩返しではないだろうか。
 お世話になった一人一人の笑顔を思い出しながら帰国の途につきたいと思う。
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【職種】日本語教師 
【出身地】宮城県仙台市
【年齢】33歳

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