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JICA青年ボランティア リレーエッセイ=最前線から=連載(22)=池田玲香=マリアルバ文化体育協会=気づいた「日本人らしさ」

2005年12月15日(木)

 ブラジルへ来て十ヶ月が過ぎた。今では、派遣当初抱いていた不安や迷いもなくなり、ここで毎日楽しく活動している。これまで、日本へ帰りたいと思ったことも、自分の活動が無意味だと感じたことも、唯の一度もない。
 ここへ来てからの思いは、とても書き尽くせないけれど、私の中で大きく変わったこと。それは、「日本人としての誇り」を持てるようになったこと。これは日系の方々に教えていただいた。
 十ヵ月間、マリアルバやマリンガ地区連合会での行事に参加させていただき、多くの事を見聞きする中で、私は、幾度も感動させられた。何もない小さな国、日本。だけど、日本の文化や、日本人の習慣は世界に誇るものだと教えていただいたのだ。日本にいる私たちは、それになかなか気づく事ができないでいる。
 どんどん外国のものを取り入れ、日本独自のものを変化させ、歪めてしまうことさえある。その一方で、ブラジルに住みながらも「日本人らしさ」を大切にして生きている人々がいる。日本の内にあるイイモノを守り続けてきた日系の方々。その姿にとても胸を打たれた。
 また、日系の方々の並々ならぬ努力は、ブラジル全土に染み渡っていることが、来てすぐの私の目にもはっきりと見て取れた。どこに行っても、私が日本人ということで、人が寄ってくることはあっても、ヤジや罵声を浴びたことは一度もないし、こんなこともあった。
 私がバスを待っていた時、周りには同じようにバスを待つブラジル人がいて、一組の親子が来た。そしてなんとその父親は、私に子供を預けて行ったのである。「この子は降りる場所を知っているから連れてってくれ」と。
 その間、ブラジル語の話せない私は一言も発していない。おそらく、その子の父親は私を日系人だと思ったのだろう。顔を見ただけで、子供を預けて行ってしまったのだ。赤の他人に子供を預けるなんて、もちろんその父親は私が外国人だなんて、思いもしなかったのだろうが、すごく驚いた。
 他にも、買い物に行き、カードが使えないお店があった。でも、現金を持っていなかったので、日を改めてこようと思ったら、「持っていっていいよ」と店員が言ったのだ。「お金は明日もってきてくれたらいい」と。信じられなかった。お金を受け取っていないのに、商品を渡すなんて。
 これらは日系人の方が作り、守ってきた「日本人らしさ」が、この国で高く評価されている証拠だと私は思う。他の国へ行っても、おそらくそんなことはないだろう。日本人と言うだけで、信用がある。でもそれは決して日本人だからではない。日系人の方が守ってきた「日本人らしさ」の中にあるものだと私は思う。
 日本を離れ、そして日系の方々を通して始めて、私は日本の文化や習慣が、どれだけ素晴らしいものであったのかを知った。私は、これからの人生の中で「日本人らしさ」を大事にして生きていこうと思う。
 そしてこのことを、今の日本で私のように、外にばかり目を向けている日本人に伝えたいと思った。
   ◎   ◎
【職種】日本語教師
【出身地】鹿児島鹿児島市
【年齢】22歳

 ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇
連載(21)=山崎由加里=特別養護老人施設あけぼのホーム=〃家族とのつながり〃
連載(20)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=百周年に移民展を
JICA連載(19)=加藤みえ=ボツカツ日本文化協会=ボツカツから笑顔の風
JICA連載(18)=中江由美=ポルトベーリョ日系クラブ=「時の流れもお国柄」
JICA連載(17)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=パンタナールに漂う空間に出会って
JICA連載(16)=宇都宮祐子=Escola Professora Josephina de Mello(マナウス)=料理アマゾナス風
JICA連載(15)=松岡美幸=パラナ州パルマス日伯文化体育協会=「人の温かみを感じる町」
JICA連載(14)=相澤紀子=ブラジル日本語センター=「何を残して何を持ち帰るのか」
JICA連載(13)=東 万梨花=トメアス総合農業協同組合=ブラジル人から学んだ逞しくなる秘訣
JICA連載(12)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「笑顔の高校生達」
JICA連載(11)=原 規子=西部アマゾン日伯協会=元気な西部アマゾン日伯協会
JICA連載(10)=中江由美=ポルトヴェーリョ日系クラブ=「熱帯の中で暮らし始めて」
JICA連載(9)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=「日本」が仲立ちの出会い
JICA連載(8)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=日本が学ぶべきこと
JICA連載(7)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「気づかなかった素晴らしさ」
JICA連載(6)=清水祐子=パラナ老人福祉和順会=私の家族―39人の宝もの
JICA連載(5)=東 万梨花=ブラジル=トメアス総合農業共同組合=アマゾンの田舎
JICA連載(4)=相澤紀子=ブラジル=日本語センター=語り継がれる移民史を
JICA連載(3)=中村茂生=バストス日系文化体育協=よさこい節の聞こえる町で
JICA連載(2)=原規子=西部アマゾン日伯協会=「きっかけに出会えた」
JICA連載(1)=関根 亮=リオ州日伯文化体育連盟=「日本が失ってしまった何か」
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