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世界の次世代エネルギーの主役――――注目集まるバイオエタノール=高山直巳(ジャパンデスク社代表)

2007年1月1日付け

世界最大の競争力誇るブラジル

 ブラジルは、近未来の世界の経済勢力図を塗り替えると言わるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の新興国群)の一角として、ここ数年脚光を浴びているが、急成長を続けているのは他の三国であり、ブラジルはかなり水をあけられた感がある。
 しかし、BRICsに代わって最近注目されているのは「バイオエタノール」に象徴される資源大国としてのブラジルの存在である。国際原油高と環境問題に世界が神経を尖らせている中、環境にやさしいバイオエネルギー(生物資源)の宝庫として、ブラジルが急浮上している。
 世界のバイオエタノールの生産量は〇五年で四六〇〇万キロリットルと、ここ五年で倍増している。この内、ブラジルはアメリカと世界のエタノール生産量を二分し、三三%を占めている。
 ブラジルの強味は、砂糖キビを原料とする低コスト(アメリカの半分、EUの三分の一)、さらにフレックス自動車の普及に象徴されるエタノールの実用化である。つまり、ブラジルはアルコールの生産規模、コスト、実用化の面で、まさに世界最大の競争力を誇っている。
 資源輸入国である日本の関心も高く、近年の小泉前首相の来伯をはじめ、閣僚、議員、公的機関や民間企業など、ほとんどの視察団が「エタノール」に対する高い関心を示している。安倍晋三内閣が誕生した際、首相自らがバイオ燃料の利用を加速させる所信声明を発表している。

世界最先端を走るブラジルのエタノール自動車

 ブラジルでは、ガソリンへのエタノール混入が義務付けられており、ガソリンスタンドでレギュラーガソリンを入れたとしても、それには既に二〇~二五%のエタノール(無水アルコール)が混入されている。
 それとは別にガソリンとエタノールがどのような割合で混合しても良いフレックス車(FFV)が新車販売の八割を占め、大衆車の主流となっている。
 エタノールの混合割合が自由であることから「柔軟性(フレックス)」と言う名前がつけられているわけだが、利用者は割安なエタノール一〇〇%で走っている。この場合のエタノールは含水アルコールである。
 現在、ブラジルで走行している約二三〇〇万台(世界九位)の自動車には、混合率に違いはあってもほとんどがエタノール燃料で走っていることになる。
 日本がガソリンにアルコール燃料を三%混入させるか否かでモタモタしている間に、ブラジルでは三〇年前からアルコール計画(Proalcool)を土台に自動車の実用化に成功している。
 現在の世界の自動車市場は、北米ではハイブリッド、EUではディーゼル、ブラジルではエタノールというように、燃料による棲み分けができている。
 その共通関心は、今や経済効果よりも環境対応が優先されている。
 温暖化ガス削減効果という観点からすれば、原料植物の生育過程で二酸化炭素を吸収するバイオエタノールに一段の強味がある。
 京都議定書に定められる二酸化炭素ガスの排出削減を巡って、世界では「二酸化炭素の排出権利」を巡る取引が急増しており、この分野でもブラジルはインドに次ぐ世界第二位の「炭素ビジネス国」となっている。
 このように高まる環境への配慮とエコカーへの関心にブラジルのバイオエタノールが貢献する所は極めて大きい。

世界市場で快走する日本車企業

 バイオエタノールの需要の大半は自動車燃料である。これまでブラジルの日本車メーカーは、ブラジルでのフレックス車(アルコール一〇〇%燃料対応車)の生産をしていなかったが、ホンダは昨年十二月にフレックスを投入し、トヨタも今春に実施に踏み切る予定だ。
 日本の自動車メーカーは、今や日本国内の販売よりも海外での利益が業績を牽引しており、国際市場中心の経営戦略を立てている。その「本丸」とも言える北米市場では、トヨタもホンダも、低迷を続ける大手欧米メーカーを尻目に快走を続けている。
 その構図はブラジルにおいても同様である。ブラジルの自動車市場シェアは「ビッグ4」と呼ばれる主要四社(フィアット、VW、GM、フォード)が市場の八割を占めているが、その牙城は新規メーカー(日本勢のほか、仏ルノー、プジョーなど)が参入し始めた一九九〇年代半ば以降、少しずつ崩れている。
 トヨタとホンダの市場シェアは現在、それぞれ四%弱であるが、フレックス車の生産に踏み切ってからは、さらなる拡大が予想され、いよいよビッグ4の背中をとらえた感がある。
 長きにわたってブラジル市場を独占していた既存の欧米メーカーは、現在、苦戦を強いられ大型リストラを断行している。欧米勢との競争はブラジルでも今後一層激化して行くことになろうが、日本勢の快走はまだまだ続きそうだ。

高まる日本からの関心

 日本のエタノール需要は、年間六千万キロリットルのガソリン消費量に三%の混入が法的に認められている。それが日本全国に適用されることになれば、すぐに一八〇万キロリットルの供給が必要となる。
 しかも安倍晋三政権はガソリン消費量の一割をバイオ燃料で補給するという方針を示しており、日本国内での生産拡大を促している。
 しかし、日本のエタノール生産量は、試験生産に取り組んでいるわずか三〇キロリットルに過ぎない。このため、日本のバイオエタノールは、輸入に依存せざるを得ず、その最有力候補としてブラジルが浮上することは確実である。
 ブラジルでの日本企業のバイオ燃料ビジネスは、自動車メーカーと商社を中心に動き始めている。前述したトヨタとホンダのフレックス車参入のほか、三井物産、伊藤忠がブラジルでのバイオエタノール生産と対日輸出の事業化に取り組んでいる。
 ブラジルの国営石油公社ペトロブラスは、二〇〇八年からバイオエタノールの対日輸出を開始する予定であり、日本アルコール販売会社との折半出資で昨年三月「日伯エタノール」を設立している。
 ブラジルのアルコール輸出は年間二八〇万キロリットル(七・七億ドル)、その内、日本へは三二万キロリットル(九三〇〇万ドル)が輸出されているが、医薬品や飲食料品向けが主流である。
 ブラジル側は自動車補助燃料としてのバイオエタノールの輸出が始まれば、五年以内には三〇〇万キロリットル規模に急増すると見込んでいる。

世界のエタノール供給基地ブラジル

 ブラジルは世界最大のバイオエネルギーのポテンシャルを持ち、それについては当のブラジルでさえ計り知れない可能性を秘めている。
 ブラジルの国土面積は日本の二三倍、可耕地面積は日本の一〇倍強、その内、実際農耕地として利用されているのは一六%でしかない。
 現在エタノールの原料となるサトウキビ栽培面積は六〇〇万ヘクタールであり、大豆栽培面積の四分の一である。業界の専門家によると、ブラジルには短期間にサトウキビ栽培に着手できる農耕地があと三〇万キロ平方メートル(日本の国土面積の八割)はあると言われている。
 つまり、ブラジルは短期間のうちに内外の需要が高まったとしてもそれに十分対応できる能力を持つ世界でも数少ない国である。

一過性ではないエタノールブーム

 現在のブラジルのエタノール需要を押し上げているのが原油高と環境意識への高まりであることを考慮すれば、バイオエネルギーへの需要は一過性のブームで終わるものでない。
 世界中がコスト高のバイオエネルギーの研究開発に懸命なのは、環境問題や地球温暖化防止策を念頭においているからに他ならない。
 ブラジルの砂糖キビを原料とするバイオエタノールは、その意味でコストと生産規模を兼ね備えた世界市場に即対応できる次世代エネルギーとなっている。
 さらに、ブラジルのバイオ燃料はエタノールに止まらない。ディーゼル油に二%の植物油(大豆、パーム、ひまわり、デンデ椰子など)を混入した「バイオ・ディーゼル」は、既に市中のガソリンスタンドで流通している。これも汚染物質が少ない混合燃料としてエタノールと同様、世界の注目を集めている。
 限りのある化石燃料資源を再生可能エネルギーへ移行することは今や人類の課題であり、地球温暖化問題の解決策として寄与するバイオエタノールは、単に経済効果だけを目的としたものではなくなっている。
 したがって、ブラジルのバイオエネルギーに対する期待と将来的需要は今後益々高まって行くと予想される。

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