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巡回診療の支援続行を=JICA=助成削減に待った=援協負担8割近くに

2007年8月1日付け

 「巡回診療への助成金を減らさないで」――。先月、サンパウロ市で開催された海外日系人大会で菊地義治・サンパウロ日伯援護協会副会長は日本政府に対し、そう強く訴えた。国際協力機構(JICA)から業務委託を受け、援協が実施している巡回診療は助成金を年々五%削減されており、近年のレアル高の影響でさらに目減り、援協負担率は〇六年度で七七・九%(〇四年度から一七%増)となっている。「このままいけば、将来的に費用のかかる地域を切る状況になる」と根塚弘・巡回診療班長。費用のかかる地域こそが、最も巡回診療が求められている地域でもあるだけに厳しい問題となりそうだ。他分野支援に比べ、優遇されているとされる移住者の医療衛生業務ですら、「切り捨て」の瀬戸際に立たされている。
 援協が作成した統計資料によれば、〇四年度~〇六年度いずれも九十近い地区を巡回、受診者総数は四千人を超える。そのうち日本国籍者は、約四割となっている。
 診療のみならず、病気の早期発見、衛生の啓蒙にもあたり、州内各地に住む日本人移住者、日系人らが恩恵を受けている。
 〇四年の助成金は、(六六二万八千円=一六万七六一〇レアル)で援協の負担分は、二五万九八〇七レアル(全体の六〇・八%)だが、〇六年度は、五九八万三千円(一〇万九五二二レアル)、援協負担は、三十八万六二八三レアル(七七・九%)となっており、本年度の援協負担が八割を超えることは確実だ。
 以降も年間五%の助成削減がほぼ決まっているなかで菊地副会長は、「JICAの助成がなくなったら、財源をどうするか」と頭を抱える。「助成金が減ったからといって、診療レベルを落とすことはできない。援協の負担が一〇〇%になっても続けたい」と続ける。
 そういう状況のなか、「現実問題、費用のかかる奥地巡回からカットしていく可能性がある」と根塚班長は説明するが、遠隔地で現地の医療体制が充実していない奥地こそ、最も巡回診療が求められているだけに、表情も曇る。
 なお、巡回診療は、地方会員の大きなメリットでもある。打ち切りにより、援協を支える地方会員減少の可能性も否定できないだけに問題は切実だ。
 根塚班長によれば、「巡回診療の実施会場が現地のコミュニケーションの場ともなっており、『医者にはかからん』という頑固な一世も受診、予防、発見に繋がることも多い」と強調する。
 JICAブラジル事務所の小林正博所長は、「為替の変動をカバーするのは、現実問題厳しい」と話す。
 JICAが支援を行なう通常の発展途上国であれば、円高を上回って現地通貨が価値上昇することはまず起きないため、ブラジルは特殊なケースといえる。
 「(サンパウロ管内だけでなく)巡回診療にあたる医師は、手弁当に近い状態と聞いており、忸怩たる思いがある。JICA内部の自助努力も含め、移住者がいる限りは支援を続けていきたい」との姿勢には変わりないが、日本の財政の問題などもあり、非常に厳しい状況のようだ。
 年々、減少する日系社会支援。移住から百年を迎えるにあたり、新しい道の模索が求められているのかも知れない。しかし、国策としてブラジルに渡り、高齢化した移民に対する日本政府の対応もまた求められている。

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