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各国日系社会の現状と将来~海外・汎米合同大会を振り返る~連載《6・終》=分科会=米州日系コミュニティーの将来=デカセギ問題についても議論

2007年8月11日付け

 分科会「日本人移民史」は十九日、ブラジル、チリ、アルゼンチン、アメリカからの専門家が集い、五十人近い人を集めて、ブルーツリー・コンベンションセンターで開催された。
 日本文化の継承、日本語の喪失、コミュニティーの繋がりの維持、異民族間結婚――。同分科会では、午前中の各日系団体の歴史の発表に続き、午後から「現在のアメリカ大陸における日系コミュニティーが抱える諸問題と歴史的問題点」と題されたパネルディスカッションが催され、日系社会が共通して抱える問題を討議。観客からの質問も相次いで大いに盛り上がった。
 まず、各地の日系コミュニティーが抱える共通の問題をテーマに、ブラジル日本研究協会研究者のリリ・カワムラさん、全米日系人博物館のアケミ・キクムラ・ヤノ副館長、セリア・サクライ・ブラジル日本移民史料館学術アドバイザーの、三人のパネリストが見解を発表。
 リリさんは「日本のブラジル人集住地区には、ブラジルの物が何でもある。昔のデカセギ者が作り上げてきたものだ」と日本の現状を話し、「今のデカセギ者は(すでに物があるので)何の必要もなく葛藤もない一方で、日本人と混ざることもせず、子弟教育に悩んでいる」。「国際化は、文化的なアイデンティティーの問題につながっている」と発表。
 アケミさんは「全世界の日系人の共通点は苦労してきたこと」。二〇〇四年に「自分は日系人だ」とアンケートに答えた人がアメリカに約八十三万二千人いると話し、「『自分は誰か』をどう表現し、何を分かち合っていきたいと考えているか。それらの質問の答えを見ることで、現世代や将来の日系が見えてくる」と講演した。
 会場からの質問に対し、セリアさんは「日系社会の伝統的な組織のあり方が変わってきている」。階層的で、日本語を使用していたのが一般的だったころに対し、今は「二世なのか、非日系もいるのか、誰が協会を構成しているかで、団体の行動が違う」と話した。
 デカセギについて、リリさんは「経済からの必要性でデカセギにでているわけだが、ブラジルに来ている駐在員が日系を顧ないように、日本での日系人も日本人ではない。問題は、コミュニティーにある」。
 議論は、非日系人との結婚についても及び「共通の感覚、アイデンティティーにしても日系の財産は残っている。私の世代は相手が日系であることが条件だったが今はそうでもない」とセリアさん。「非日系との結婚がトレンドなのかはわからないが、もっと自分のルーツを見つめていく必要がある」とした。
 最後にアケミさんは、以前アメリカの日系議員、ダニエル・イノウエ上議が日本の政治家に、将来的に「日系の駐日アメリカ大使が誕生するだろうか」との見解を話したところ、〃デカセギ〃に行った日本人(の子孫)が自身と同じような立場になっていることが不愉快だとの返答があったというエピソードを紹介し、「日系アイデンティティーの認識は大変複雑だ。歴史を基礎に経済、政治が絡んでくる」と、今後も多くの課題があることを示唆した。



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