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サンパウロ市=お手盛りのご接見人員選び=【記者の目】百周年協会から三十人=総領事館「前例に倣った」

ニッケイ新聞 2008年6月28日付け

 九日間のご滞在を無事終えられ、日本に帰国された皇太子さま。ご出席された各地の百周年記念行事で感涙に咽ぶ一世たちの姿が多く見られたように、皇室の存在はコロニアにとって特別であることはいうまでもない。皇太子さまと直々に言葉を交せる唯一の場である「ご接見」がサンパウロで二十日夜にあった。その栄誉に浴した五十一人のうち、三十人がブラジル百周年記念協会(上原幸啓理事長)のメンバーだったから驚きだ。そのうえ、この人選を行なったのが、在サンパウロ総領事館だというのだから、あきれるばかり。
 「役人的と言われるかもしれませんが、八〇周年祭のご接見を踏襲しました」
 そう話すのは、丸橋次郎首席領事。当時のご接見への参加者の約半数が祭典に関わっていたから、というのがその理由だ。
 しかし、周年行事の中心人物が日系コロニアのリーダーだった時代と、現在との隔たりが大きいのは衆目の一致するところだろう。
 ご接見に出席した百周年協会のメンバーは、何と全出席者の六割を占める三十人。儀典委員長、芸能副委員長、執行委員、移民名簿作成委員長、スポーツ委員長、イベント副委員長などの役職がずらりと並ぶ。
 あくまで裏方に徹するべきである事務局長まで、喜び勇んで出席しているのだから恐れ入る。
 「それぞれのご意見があるだろうが、それこそ何百人になってしまう。基準も難しいし、限られた人数を選ぶのは容易ではない。だからこそ、前例(八〇年祭)を参考にした」と丸橋首席領事は説明する。
 ブラジリア、パラナ、リオデジャネイロのご接見では、地元を代表する日系人や老移民が多くおり、それぞれの思いを伝えたり、嗚咽を漏らす場面もあった。サンパウロでは、「別に話すこともないもんねえ」と嘯く出席者がいるなど、その温度差を記者が感じたのも確かだ。
 今回のご接見を担当、司会も務めた森田聡領事によれば、「リストアップされた百人ほどの候補から、今回のメンバーに絞った」という。元候補には、著名な日系芸術家やオリンピックに出場したスポーツ選手もいたようだ。
 かたや、サンパウロ州各地の日本を愛し、皇室を敬い、地道にブラジル、地元日系社会のために長年額に汗した老移民は候補どころか、検討もされていない。
 最後に、百周年協会にも一言申し上げたい。
 上原理事長は常々「主役は一世移民」「地方との連携が大事」と言い続けてきたのではなかったか。ブラジル社会で〃ニッケイ〃の名前を高めている人たちと、式典の裏方を天秤にかけた今回の人選。領事館から掛かったお声に、三十人が雁首揃えるなど、もってのほかだ。
 ここは代表者数人に留めて、傘下にある三十地方団体の代表者に譲るべきだったろう。名誉欲にかられた〃お手盛り〃と批判されても仕方あるまい。 (剛)

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