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波紋よぶネベス被告釈放=「公判は継続」と専門家

ニッケイ新聞 2008年7月5日付け

 【既報関連】「ネベス被告の釈放要求は弁護側の当然の戦略。判決までの時間稼ぎを狙ったものに過ぎず、起訴事実が無効になるわけでない。あくまで公判は継続されるわけで、大騒ぎするものではない」――。国外犯処罰問題はじめ、日伯間の法律に詳しい二宮正人弁護士はこう述べ、加熱する日本側の報道機関に釘を刺した。
 静岡県焼津市の母子三人殺害事件で、殺人罪に問われて公判中のネベス被告。同被告の拘留を違法とする申し立てがサンパウロ州高等裁判所で認められ、今月二日、実際に被告が釈放された一件だ。
 四日現在、釈放の理由について、公式に全容は明らかにされていない。同公判を担当したアルベルト・アンデルソン裁判官でさえも、「釈放は私の上の管轄にある州高等裁判所が決定したもので、その理由は全く知らない。私のところに釈放の理由を記した書類が届くのも二週間かかるし、それまでわからない」という。
 同裁判の担当検事や広報担当もほぼ同じような状況とみられる。法律関係に詳しい日系の専門家の間でも、この文書が入手するまでは確実なことは言えないと話す。
 ただ、一部の日本メディアが報じている通り、同裁判官は公判中、国外犯の処罰に関する裁判は、州でなく連邦裁判所が扱うべきと発言したことを、ニッケイ新聞の取材でも認めている。この発言を根拠に弁護側が、同裁判官が命じた被告の逮捕と拘留は違法と申し立てたとみられる。
 なお共同通信によれば、被告の拘束解除は、憲法が保障する弁護人選任権が侵害されたため逮捕状が無効となったため、と違った理由を報じている。「司法当局によると、被告は逮捕直後、弁護人を依頼しようとしたが担当判事が拒否したこと」が弁護側の根拠になっているという。
 同裁判官によれば、ブラジルの司法体系は、サンパウロ州内にも二つのレベルの裁判所があり、連邦裁判所を含めて計四段階に分かれている。同裁判官はサンパウロ州刑事裁判所に所属し、今回の公判を一段階目のレベルで扱っていたといえる。なお弁護側の申し立てを受け、被告の釈放を認めたのは第二段階のサンパウロ州高等裁判所となる。
 昨日既報通り、同被告の起訴事実を審議する裁判自体は継続される。ただ、被告の身柄は当面非拘束になるとみられ、再度の拘束・逮捕は担当裁判官の判断に委ねられる。裁判の長期化も免れない。
 釈放中、被告が逃亡する可能性も否定できない。ただ、二宮弁護士によれば「州高等裁判所の判事らは、被告釈放に伴う危険性や逃亡の恐れがないと判断し、釈放を決めたはず。被告はブラックリストに登録されており、アマゾンの奥地に逃げ込んだり、国外に逃亡することは現実的に有り得ない」と、冷静に見る。
 今後、同裁判をアルベルト裁判官が継続し、サンパウロ州刑事裁判所のレベルで扱うのか、または同裁判官が述べたように連邦裁判所が担当するかのかは、司法関係者の間でもまったくわからないという。国外犯の裁判をどのレベルでの裁判所で扱うかは、ブラジルでも例が少なくその規定もあいまいで、研究の余地があるという。

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