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デカセギ子弟の母国に触れる=JICA=日本の現場教師がブラジル視察=「ここで見たこと伝えたい」

ニッケイ新聞 2008年8月8日付け

 デカセギ子弟教育を支援するためにJICA(国際協力機構)が実施している、中部四県の外国人集住地域などの公立校教師らが外国人児童生徒の出身国を視察する「教師海外研修プログラム」の九人、日系社会青年ボランティアの枠組みを利用して新しく始まった「現職教員特別参加制度(日系)短期派遣」の六人が五日晩、JICAサンパウロ市支所にあつまり、懇談した。
 まず、一週間前から視察を開始していた前者のプログラム(滞在期間は約二週間)の参加者が、到着したばかりで今後三週間にわたって視察する後者に、現在までの感想と心構えなどの助言を行った。
 山方元さん(愛知県立蒲郡高校、44)は「日本にいた時は、もっと具体的な日系社会があると思っていた」とのべ、ブラジル人生徒のアイデンティティがどういうものかが当地に来れば分かると思っていたが、「理解の難しさが分かった。これは来てみないと分からない」と感じたという。
 田中真弓さん(三重県四日市市立西笹川中学校、46)は「文化や価値観の違いなど、ここで見たことを現場に伝えたい」とのべた。
 中野行俊さん(三重県名張市立北中学校、38)は、平野植民地を視察した感想として、「百年前の苦労が偲ばれるような広大な、そして、何もない土地だった。苦しかっただろうが、我々には『しんどかった』などという話は一切なかった。(移民と)話しているだけで、同じ日本人として感じるものがあった」との胸中を語った。
 愛知県でNGO職員をする平野清恵さん(54)は、「日系、非日系問わず、みなが温かく接してくれる。我々は日本で、同じようにブラジル人に接しているだろうかと思った。ブラジルのことを、もっと知っていてもよかったと感じた」などと語った。
 質疑応答の中で、後者プログラムの伊藤志須雄さん(25)は、勤務する愛知県知立市東小学校では、全校三百四十人中、外国人児童が百四十人もおり、四五%を占めると報告。自らが担任をするクラスも、三十人の児童のうち十三人が外国人(うちブラジル人十一人)だという。「保護者自体とのコミュニケーションが難しいこともあり、従来のような考え方で子供を教育していく体制ができない」などの現場の悩みを吐露した。
 また、同プログラムの片桐努さん(静岡県長泉中学校、28)も、前任校では日系生徒が生徒会長を務めていたことを紹介、その一方で、十数年前には日本人の不良生徒がたむろしていた場所にブラジル人がいるとの印象があり、心配する要素となっているようだ。
 千坂平通同支所長が司会を務めた。川村リリサンパウロ州立カンピーナス大学教授は「日本人に育てるのではなく、ブラジル人としてのアイデンティティを残せる教育をしてほしい」などと総括のコメントをした。その後に夕食親睦会に移り、さらに情報交換をした。

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