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ブラジルで白球追う少年たち=9年目のヤクルト野球アカデミー=連載〈上〉=日本と変わらぬ練習風景=年々増える非日系選手

ニッケイ新聞 2009年1月10日付け

 サンパウロ市から西に約七十キロ離れたイビウーナ市にある「ヤクルト野球アカデミー」。日本やアメリカでプレーすることを夢見る選手たち四十四人が、日本やアメリカでプレーすることを夢見て、日々トレーニングに励んでいる。〇八年夏の甲子園大会で活躍した本庄第一校の奥田ペドロ選手や伊藤ディエゴ投手など、同アカデミー出身者が日本の高校野球や社会人野球などで徐々に名前が出てきている。アカデミーの歴史や選手たちの生活、ブラジル野球界の問題や将来に向けての課題などを聞いた。(坂上貴信記者、取材は昨年十一月のもの)


 タダイマ、センセイ――。地元の学校で勉強してきた選手たちが、食堂で待っている佐藤允禧監督(みつよし、62)に日本語であいさつする。続いて、関係者やコーチたちともあいさつを交わしていく。選手たちが日本語を理解して使用しているのだ。
 ひとときの昼食を楽しんだ後、選手たちは練習場に姿を表し、まずグラウンド整備から始めた。手馴れた手つきでテキパキと準備をはじめていく。日本では強制的に動く姿を見るが、ここでは楽しそうに準備を始めているように見える。
 練習前に、佐藤監督が連絡事項を伝え始めると、帽子を取り、おとなしく話を聞いている。監督はじめ、コーチたちの話が終わると、「オネガイシマス」と一礼し、グラウンドに向かっても「オネガイシマス」とあいさつし、ウオーミングアップから練習を始めた。
 ウオーミングアップ後の練習はその時の状況に合わせて行われる。大会が近いと大会にあわせた練習をしている。日本で見るのと全く変わらない野球の練習風景が、ここブラジルにもあった。
 現在、同アカデミーでは佐藤監督をはじめ、二人のキューバ人コーチ(ピッチングと守備攻撃)、ピッチングコーチ(一人)、トレーニングコーチ(二人)が、選手たちの指導にあたっている。
 同アカデミーは、始まってから九年間、ブラジル国内の選手の能力アップや、日本やアメリカに選手を送るなどの役割を果たしてきている。
 始まった当初は日本から三人のコーチが派遣されていたが、現在担当するのはキューバ人だ。キューバ人は大学などで野球の指導法を勉強していて、基礎指導などが一貫しているなどの理由で採用しているという。練習方法はキューバと日本式の両方が混ざっている。
 選手たちは地元クラブに所属して、練習をアカデミーで行う。週末になると自分のチームに戻り試合に参加している。
 選手の能力アップを目標にしているために、アカデミーではチームを作っていない。一つのチームだけが強くなりすぎると、大会にならないし、選手のやる気を削ぐ可能性があるからとの方針からだ。
 同アカデミーの入学試験は十二月はじめごろに行われ、毎年八人ほどの枠に対して全伯から十五人から三十人の応募がある。受験者と在学者の約六〇%は非日系人。入学試験は体力テストや実践形式に加えて面接も行われる。非日系人は身体能力が高く、入学する選手の割合が増えてきているが、生活教育が難しい。
 最近では、野球経験者の学費を免除するなどの恩恵を大学で受けられるようになり、徐々に野球に対する認識も深まってきている。  (続く)
写真=練習に励む選手たち



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