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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年3月13日付け

 「いつ加えられるか分からない拷問は、耐えられないものだった」「官僚主義だから週末に拷問はなかった。そんな時はみんなで歌をうたって気を紛らわした」。軍政時代に反政府活動をした若者たちによる、魂の叫びともいえる証言が聞ける場所がある▼サンパウロ市ルス区のレジスタンス記念館(Memorial da Resistencia=Largo General Osorio,66)だ。レジスタンスとは「専制などに対し、自由と解放を求める政治的抵抗運動」(ウィキペディア)のこと。前述のような収監体験者の声がテープで、当時そのままの監獄の中で聞ける▼ここは、政治犯としてDEOPS(政治経済警察)に捕まった多くの若者が投獄された建物を記念館として公開したものだ。収監者の中には耐え切れず自殺したもの、死んだ人、行方不明者も数知れず…。物言わぬ壁には「忘れてはいけない英雄たち」のリストが刻み込まれ、中にはルイス・ヒラタ、ルイス・タカオカなどの日系名も▼興味深いのは、百周年を記念して四月末まで開催中の特別展「閉じた輪―DEOPSの監視下にあった日本人たち」だ。臣道聯盟の吉川順治理事長の調書など、珍しい同警察史料が展示されている。ガラス棚には岸本昂一著『南米の戦野に孤立して』が陳列され、「翻訳して検閲し、国外追放が検討された」などとの説明文もある▼ただの教科書のはずの『文部省尋常小学國語読本巻九』まで展示されており、考えさせられた。日本語というだけで治安問題とされることは、本来あってはならない。戦前戦中の独裁政権や軍政時代の犠牲者たる日系の歴史は、ブラジル史にとっても貴重な教訓を伝えている。(深)

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