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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年7月8日付け

 本紙「移民の日」特集号で〃アマゾン移民のふるさと〃トメアスーを舞台にしたマンジョッカによる世界的エネルギー構想のために、岸信介元首相(山口県出身)がお忍びで来伯していたことを報じた。それに関する極め付きの秘話を、山口県人の読者から教えてもらった。岸氏といえば安倍晋三元首相の祖父にして、戦後日本を代表する総理の一人だ▼『岸信介の回想』(文藝春秋、一九八一年)の中で、日本の首相として初来伯した五九年に亜国、チリにも歴訪したことに触れ、その中で一番印象に残っているのは「それはブラジルですね。日本人移民、日系人が各界に活躍していることですね」(二百六頁)と答えている▼秘話とは、この初来伯時、戦前のサンパウロ市の日本人集団地だった「コンデ街」でミカン箱を並べて、田村幸重氏の応援演説までやったことだ。「そこについたら、大歓迎だ。日本の国旗を掲げて、街頭を埋めつくしているのだ。ブラジル人も両方ですよ。それでそうなると、思わずちょっと、選挙演説を思いだしましたよ(笑)」となごみ、「ミカン箱をならべて、その上に立って、それでそこは田村というブラジル共和国の代議士の出身地なんだ。田村君をそばにつれてきて、これは君の、いい選挙演説だよと言ったんだ」(四百二頁)と嬉しそうに語っている▼現役の日本の首相がコンデ街でミカン箱の上にのって日系代議士の応援演説―。そんな光景が展開されたとは、〇四年に小泉首相が予定にないグアタパラ移住地に急きょヘリを着陸させ、その時のことを思い出して文協で講演中に涙したのに匹敵する、移民と首相の交流秘話ではないか。(深)

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