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麻野涼=新作ミステリー『誤審』=「卑劣な犯人に復讐を!」

ニッケイ新聞 2009年7月15日付け

 元パウリスタ新聞記者で、現在日本で小説家として活躍する麻野涼氏の新作『誤審』(徳間書店、千八百円)が先頃、日本で発売された。
 帯に「私はあきらめない! 卑劣な真犯人に償わせるまで」とあるように、群馬県の片田舎で起きた夫婦殺害事件で濡れ衣をきせられた父親の汚名をそぐため、娘が謎を解き、密かな復讐劇を企てる様を描いた話題作だ。
 平凡で幸福だった一家を崩壊させた父親の冤罪事件の真相を突き止める手がかりは、主人公の典子が務める、死を待つ患者を収容する緩和ケア病棟の老人の寝言にでてくる人名にあった。
 「ユミ」。それは世間の白眼視に耐え切れずに自殺した姉の名前、そして「ミサコ」は、殺された夫婦の妻の名前…。
 次々に明らかにされる意外な人間関係の糸をほどいていくと、自分の知らなかった家族の苦悩が浮かびあがってくる。そして、現代の医療制度の隙間をぬって緻密に計算され、コンピューターやネットの技術を駆使して犯人とおぼしき人物への企てが始まる。
 典子は「自分や家族が体験してきた苦痛に比べたら、今××が味わっている苦痛などなんでもない。自分たちは平凡な幸福の変わりに汚辱にまみれた人生を享受しなければならなかった」との想いを忍ばせ、ついに計画を決行する。
 前作『GENERIC』では大学病院の医療誤診問題を扱い、ブラジルに逃亡した若き医師の良心の呵責を描いた麻野氏。今回は裁判官の誤審問題へと焦点を移し、新たな地平を切り開く長編ミステリーの力作となったようだ。

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