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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年8月13日付け

 寒い夜の晩酌はいい。湯上りの一杯は人肌のぬるめを舌にころがし、あの芳醇さを楽しむ。次の銚子は少しばかり熱く、調子が上がり3本目となれば熱燗にし、いささかの酔眼で2つ3つの猪口を見てはー銅の銚釐(ちろり)で燗をつけ備前焼か織部を手にちょっと薄味の肴を口に独り酒を静かに呑みたい▼若い頃は強いのが好きだし、酔うために呑む。酒博士の故・坂口謹一郎氏は、日本酒、ビール、老酒を世界の醸造3名酒としているが、酒造りというのは難しい。あの「清酒」が造られるようになったのは江戸時代の初めの頃であり、伊丹の綺麗に澄みきったのが江戸へ回漕され大人気を博したそうである。「下りもの」と呼んだようながら味も香りも現在の「清酒」が一番に美味い▼話は飛ぶが、「働く」のを義務とした移民たちに酒器を持参した人は少ないのではないか。まあー「ブラジルに日本酒はない」の思い込みがあったろうし、色絵や染付けの多彩な銚子もだし盃の底に穴があいている「可杯」(べくはい)までの心配りもなかったに違いない。だがーここブラシル・サンパウロには「東麒麟」の銘酒がある▼これは故・山本喜誉司氏が「ピンガの呑みすぎ」を懸念し醸造させたものと伝え聞いているが、最近のはかなり上等になっている。「頭キリン」は昔の話で今は吟醸酒、純米酒や辛口もあるし35度の米焼酎もと品数も多い。灘や南部から杜氏が手助けにきたのかもしれないが、とにもかくにも安物の日本物よりも遥かに美味い。「東麒麟」の発売は1934年。今年は創立75周年なのである。益々のご繁盛を。 (遯)

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