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ロンドリーナ市制75周年=躍動する新都のいぶき=連載=第5回=デカセギ帰りが挑戦=日本のデザートで勝負

ニッケイ新聞 2009年12月25日付け

 寿司、刺身だけでない日本食の魅力――和風洋菓子の美味しさはブラジルにも広まるか。
 ロンドリーナで最も注目されている日本風洋菓子屋「ハチミツ(Hachimitsu)」(Av. JK, 3190 loja02)の店主、加藤ニーロさん(45、三世)は、15年のデカセギ経験を有意義に活かしている新世代だ。
 日本語レベルが高いことで知られるアサイの出身だが、訪日当初は「日本人の日本語は難しいと感じた。最初、和製英語が全然分からなくて困った。例えばテレフォンカード。あの頃、ブラジルはフィッシャ(コイン)を使っていたから、聞いても何のことか分からなかった」と振り返る。
 多忙な時には「日曜日から日曜日まで働いた」と笑う。「日本は楽しかった。ブラジルにはない自動販売機、ネクタイして自転車をこぐ背広姿の人の姿、一分の狂いもない電車とか、何を見ても新鮮だった」。
 工場労働の中で、「同僚のブラジル人の中には寿司、刺身に慣れない人もいたが、誰もが共通してデザートは最高だと誉めているのを見て、これをブラジルでやったらきっと成功する」とのアイデアが浮かんだ。
 ロンドリーナ出身、妻の和枝さん(42、三世)は福島大学に留学していた最初の一年に、日本のデザートの虜(とりこ)になっていた。愛知県豊橋市で働いていた時、和枝さんはABCクッキング料理学校で4年間、デザートを勉強し、着々と準備を進めた。
 友人の誕生日パーティーなどの時に頼まれてケーキを作るようになり、そのお金で帰伯してノルデスチを2週間旅行し、二人は「デザートは金になる」と確信した。03年に子供が8歳になり、日伯どちらで教育を受けさせるか悩み、帰伯することを選択した。
 05年に帰伯した時、日本のデザート工場で働いた経験のある帰伯デカセギ者が、同年2月から市内に日本風洋菓子店「ハチミツ」を始めていたのを見て、「先を越された」とがっかりした。
 ところが「偶然、不動産屋と話していたら、その店が赤字で売りに出ているとの話を聞いた」との転機を振り返る。
 同年8月にはデカセギ資金で迷わずその店を買った。「最初の味は日本そのままで、ブラジル人には軽すぎた。僕らは砂糖の量や味の濃さを工夫した。それでも半年は赤字だった」。現在では市内有数の人気店として定着、約40種の洋菓子に加えエクレアなども並べている。
 「4日のグローボ・レポルテルで日本の洋菓子の話を特集したでしょう。翌5日、土曜日はお客さんであふれて大変でした」と嬉しい悲鳴。
 和枝さんも「日本にはこちらにない食材がある。どう日本の味を再現するか、毎日が工夫です」と難しさを説明する。「その代わりにブラジルは果実が豊富でしょ。それを使ったメニューを増やしたらすごく好評です」。
 「基本レシピはフランス風だが、繊細な調理技術は日本、そしてブラジル式の柔軟なアイデアが僕らの強み」とニーロさん。「コーヒーゼリーとかまだブラジル人は食べない。だんだん慣れさせたい。寿司、刺身だけでなく、デザートの分野でも日本の味を広めていきたい」と力を込めた。
 移民は日本の伝統文化を持ち込んだが、デカセギ帰りは現代日本を伝えている。この新しい脈動が新都の食生活をさらに豊かなものにしている。
(続く、深沢正雪記者)

写真=繊細な日本風洋菓子が並ぶ。左から和枝さんとニーロさん

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