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唯一の日本人ガリンペイロ=杉本有朋氏が初めて語る=熱く燃えたセーラ・ペラーダの6年間

特集 2010年新年号

ニッケイ新聞 2011年1月1日付け

 杉本有朋氏は1929年、福岡県生まれ。経理学校を卒業、警察予備隊久留米部隊に入除隊後、家業の新聞販売店を手伝う。結婚後の55年8月、オランダ船ルイス丸でブラジルに降り立つ。
 ロンドリーナ市で洗濯屋、バールを営んだ後、新鮮な魚がない時代、未舗装の道路をトラックで直接運び込んで売り出したら大当たり。北パラナ一帯の魚卸業者に。
 不動産を購入、7軒の家賃収入で人も羨む左うちわの生活に飽き足らず、子供からの夢だった自家用飛行機を購入、一人空の旅を楽しんでいた52歳のある日。
 「パラー州に金鉱セーラ・ペラーダ発見!」とのニュースを聞く。
 人生50年、あとはお釣りと思っていた矢先、「これだ!」と大いに張り切り、家族にも一時の別れを告げ、エル・ドラード(黄金郷)へ向かった——。

 現在81歳。プライア・グランデの海岸に面したアパートで妻千尋さん(76)とのんびりと二人暮らし。
 金鉱に舞うという銅の粉塵の影響か肺気腫を患うが、至って健康。記憶も定かで「福岡時代の数年間、〃三百代言〃をしていた」経験からか、弁舌も巧みだ。
 数々の修羅場をくぐってきたとは思えない柔和な笑顔が印象的だが、「攻撃的な性格だったら殺されてますよ」との言葉がグッと重みを持つ。 目をギラつかせた荒くれ共と、欲望の渦巻くセーラ・ペラーダで過ごした1981年からの濃密な6年間の話をたっぷりと伺った。

金堀りのシステムとは

 ガリンペイロ組合が区画(2×3メートル)の採掘権を売りに出す。私の時は500人が応募したんですけど、幸運にも私と右腕のジョアンが当たってね。二つの権利を得た。最終的には5千区画あったんじゃないかな。
 10人のツルマ(仲間)が一つの区画に入る。炊事、ツルハシ、スコップ係が一人ずつ、7人は土運び。パトロンが食料、道具、住居を保証する。
 金が混じってない土を麻袋につめて運び出すから、セーラ・ペラーダはすり鉢のように削られていく。周りはボタ山だらけですよ。
 砂金が混じる土(カスカーリョ)がでてきたら、自分たちの宿舎に作っている5メートルの流し台に土を流す。40センチ毎にある桟に、砂金や鉄が混じった砂が溜まったものをバッテイアに水を入れて揺すって分離させる。
 これが大変な作業なんですよ。水銀を使えば簡単なんですけどね…。まあセーラ・ペラーダでは禁止されてましたから。
 金が混じった砂鉄を磁石で取って集めたものを国立商業銀行(Caixa Economico)に持っていく。銀行っていってもあばら家ですけどね。
 小さな溶鉱炉があって、白い薬品を混ぜて純金の塊にしてくれる。納品書を作って買い上げてもらう。

札束をダンボール箱で

 分け前は出た時払いのメイア・プラッサ(歩合制)。パトロンが半分、残りを10人が分ける。つまり5%ずつね。
 自分の分はその場でコンタ(口座)に入金して、残りは造幣局の封印がある現金が詰まった段ボール箱を担いで持って帰る。10で割ればいいわけですからね。数えないですよ。通し番号で渡していく。
 誤魔化したら? 間違いなく殺されるでしょうね。でも何人かついてくるし、中には字を読めるのもいる。納品書も見せるから無理ですよ。
 その後、2週間ほど休暇を出す。みんな故郷で家族サービス。帰ってこなかったら、自分の権利を失いますから、みんな戻ってきますよ。
 当然、もう一つのツルマは面白くないでしょ。しょうがないから「女郎屋に行ってこい!」って200コントずつやったりしてね(笑)。
 最高に取れたのは、一回に8キロ。5メートルの流し台が真黄色になりましたよ。今だったら、約3200万円くらいですかね。

「金は人間狂わす魔物」

 金が出なけりゃ、パトロンの経費が嵩むばかり。あまりに出ないと、もう止めようかな…って思うわけですよ。
 そんな時に、10グラムくらいポロっと出る。そこでまた張り切る。止めようにも止められない。そうして深みに嵌って抜け出せなくなる。ギャンブルと同じ。
 金っていうのは本当に人間を狂わせる魔物ですよ。

土にまみれる毎日

 朝は7時に起床して朝食を摂る。ポンとカフェ、レイチに前の晩余ったもの。
 毎朝、朝礼があるんですよ。お偉方が訓示垂れて伝達事項を伝えたり、その後は商店街で買い物したり。
 8時から仕事で正午は小屋に戻って昼食。1時から作業再開、ファロッファのおやつを3時に食べて6時には作業終了。
 日、祝日は休み。がけ崩れの影響で、採掘場に入れずに仕事できない状態の時も多いですよ。
 20人雇っていた私のところでは、肉は一日10キロ、米は一週間に1俵買っていた。政府が統制してるから値段も高くない。食べ物が良かったから「雇って欲しい」っていうのも多かった。
 電気がないから、まだ明るい7時前には食事して、9時にはヘッジで寝る。食べて寝るだけの生活。そうじゃないと体ももたないですよ。

酒は厳禁、ポルノでうさばらし

 セーラ・ペラーダは酒の販売が禁止。薬局には消毒用アルコールもなくて、注射のときはヨードチンキを使うほど。
 暴動が起きないようにか、時々は映画やサーカスがやってくる。映画って言ってもポルノね。
 みんな男ばかりですからね、みんなスクリーン見ながら、自慰行為したりオカマ同士が抱き合って唸り声上げたり。すごい光景ですよ(笑)。
 サーカスも言ってしまえばストリップ。ガリンペイロたちがステージに砂被りで、競ってハンカチを出すわけ。
 そしたら、踊り子がアソコをこすって返す。それを嗅いで、フーって卒倒する。いやあ、見てて飽きなかったですね。

毎晩3〜5人が死ぬ歓楽街

 遊びに行くのは、クリオノーポリスって50キロ離れた街。マラバとの間にあってセーラ・ペラーダを統括していたクリオ大佐の名前を取ったらしい。金が入ると、そこに繰り出す。
 女郎屋も一杯あってね。色んなところの女がいたけど5〜10ドルくらいかな。サンパウロの女はブランドなのか、ちょっと高かった。
 酒も飲めるから、よく喧嘩がありましたね。女郎を巡ってのものがほとんど。また女郎が悪くて、けしかけて喧嘩させるんですよ。
 ファッカを抜いて地面に×を切る。相手が気勢を削がれて抜かなかったら負け。もう小姓扱いですよ。銃持ってる奴も多いから、その街は毎晩3〜5人が死ぬ。警察もろくに調べない。それをいいことに殺人も多かった。死んだら無縁墓地に埋めるだけ。完全な犬死にですよ。
 金を当てた人間をバンブラードっていうんですけど、レストランで食事してるとバーンと入ってきてね、「今日は俺のコンタだ!」って。
 みんな大歓声で応えて、飲めや食えやの大騒ぎ。面白かったね〜。みんなそれをやりたくて金掘ってるわけですよ。

女人禁制、オカマ組合も

 セーラ・ペラーダは酒類厳禁、女人禁制。まあ10人のうち3人は男と経験あるんじゃないですかね。
 東北伯の人間は平気みたいですね。女がいないから男。それだけの問題。どっちが男役っていうのもなくて、トロッカトロッカ(交代)ね。
 日本人はモテる。みんな、私に抱きついたり、触ったり。水浴びしてたら見に来る。
 「日本人のは小さいから痛くなくていい」「日本人としたことあるんか?」「ベレンである」ってね(笑)。
 見た目もオカマっていうのは、さすがに警察が取り締まる。頭をトラ刈りにしてマラバに追い出すんですが、3日もしたら戻ってくる。炊事係に多かった。
 傑作だったのが、〃強姦〃されたっていう男が警察に訴え出て、犯人が捕まった。そしたら警察が「検証するから、ここでやってみろ」って苛めたりね。
 そうそう、ヴィアード組合っていうのもある。もちろん正式な組織じゃないけど、オカマっていうのは、真面目で金持ちも多いから。
 何か問題が起きたら解決したり、仕事を斡旋したりして結束が強いんですよ。いわばオカマの互助会ですよね。

金のある所に落雷多し

 「使わないと金は出て来ない」っていう迷信があるんですよ。山の神が金脈を隠し、果てはわが身に災難がふりかかるーとか言ってね。
 まあ、よっぽど当てたら別でしょうけど、みんな大盤振る舞いして、女郎に貢いで使い切ったら土掘り。その繰り返し。貯めて何かをしたって話は聞いたことない。
 「金があるところに雷が落ちる」。実際、セーラ・ペラーダにはよく落ちるんですよ。
 けどね、ガリンペイロは唯物論者ですからね、神や迷信を信じる人間は少ない。
 金が出てきた、金鉱を見つけたって話には、火と光がでてくる。けどねえ…嘘つきは一、女郎、二、釣り師、三、ガリンペイロというくらいですから、その話を信じて森の中を分け入って、大変な目に遭ったっていうこともよくありましたよ。

生き抜くための処世術

 ガリンペイロの出身はマラニョン、セアラー、パラー州…乱暴な連中もやはり多いですよ。
 一山当てたいっていう欲張りばかりだから、争いがメチャクチャある。それをいかにすり抜けるか、切り抜けるかっていう機転が利くかが重要ですよね。心の余裕、「逃げるが勝ち」ね。
 短慮な人はダメ。喧嘩してもいいけど、引き際を知らないとね。だけどそれも被害が少ないときですよ。全てが打算ですから、ここで引いたら不利と思ったら命がけ。
 強いものには面従腹背、弱いものは容赦なく叩く、と。世の習いですけど、それが分かりやすいというかね。

日本人でトクしたこと

 ブラジル人はね、日本人をおとなしくて手荒なことをしない人間と思っている。というより、し切らないと。つまり見くびっているわけ。
 だから、話し合いでくる。カボクロは分からず屋ですからね。普通だったら、ファッカ抜いてる場面でも、私が交渉するとうまくいくから、みんなビックリする。
 採掘権や手数料の問題で殺す殺されるの雰囲気でも、私が話に行ったら逆に仕事任されたりね。
 金と仕事取れる奴が一番偉いから、私はパトロンになるわけ(笑)。
 日本人は少なかったから目立ちましたよね。
 800キロ採ったアルタミーラの笹野さん、マラバの坂本さんがいたけど二世。セーラ・ペラーダでガリンペイロやった日本人は私だけだと思いますよ。

死は隣り合わせ

 事故は日常茶飯事。ピカレッタ(つるはし)を足の甲に打ち込まれたり、土嚢を担いで梯子を上がるでしょう。その時に落ちて、他の人を巻き込んだりね。
 死体は山に埋めるだけ。葬式なんかは見たことないですね。
 人為的事故っていうのもあって、悪魔みたいな人間が本当にいて、下で働いている人間がいるところに岩をけり落とす。あれはかなり死にましたよ。銃を撃ちまくる奴もいるしね。通り魔みたいなものですよ。
 狙われたら自分を守るしかない。自分で殺したことはないけど。間接的にはね…。
 マンダ・エンボーラ(解雇)すると逆恨みされて付け狙われるときがあるんですよ。
 カパンガ(用心棒)のジョゼっていうマラニョンの奴に事情を探らせると、「俺に任せてくれ」って言う。後から聞いたら、どうも殺したらしい、と。でもジョゼは平気な顔してるわけ。そいうのが2、3回あった。
 まあ、パトロンが殺られたら、自分らが困るわけですから。私のためっていうか、ツルマのために殺すわけですよね。
 ジョゼに狙われた奴が「助けてくれ」って私に土下座したことがありますよ。
 雇われて殺すこともあって、500ドルが相場と聞いてましたね。もっとも地位のある人は違うでしょうけど。
 カスカーリョが出始めて換金する直前に寝込みを襲われて、全員殺されることもある。
 人夫として入り込んできて情報を流すんですよ。83年頃、サンパウロの強盗団が大々的にやってね。みんな疑心暗鬼で戦々恐々でしたね。

結局、何を得たのか

 経済的にいえば、大失敗でしょうね。家5軒を売ってセーラ・ペラーダに投資して何も残ってないわけだから。
 儲けた金でクリオノーポリスに卵の販売所を作って冷蔵施設も置いて、ロンドリーナから卵を運んで売ったんですけど、使用人に持ち逃げされたり…。
 でも後悔はしてないですよ。むしろ誇らしい。やりたいと思うことを50歳過ぎてやったわけだから。楽しかったし、本も書けた。
 欲を持つのはいいことだと思う。金銭だけではなく、興味、好奇心への欲。そういうのが日本の若者には欠けてるんじゃないですかね。
 まあ…迷惑と心配をかけた家内には感謝してますけどね(苦笑)。
(2010年12月4日、プライア・グランデで収録)

【セーラ・ペラーダ】

 パラー州マラバ市の南西に位置する埋蔵量500トンといわれたブラジル最大の金鉱。
 1980年にジョゼー・ペイトーザ・ダ・シルバによるピピッタ(金塊)の発見で開発が始まり、政府企業のDOCEGEO(Rio Doce Geologia e Mineracao)が採掘権を持っていた。
 雨季を除く4月から11月まで稼動し、常時2万人、7、8月は6万人が従事した。ポルトガル語で「禿げ山」の意味。

 元ガリンペイロの杉本有朋氏が克明にセーラ・ペラーダの日常を描いた『ガリンペイロ(採金夫)体験記〜アマゾンのゴールドラッシュに飛び込んだ日本人』(近代文藝社刊)を本紙編集部で発売(60レアル)しています。
 ご希望の方はニッケイ新聞編集部(11・3208・3977、担当レジーナ)まで。

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