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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年2月9日付け

 藤山節雄さんが5日に亡くなった。歌手の井上祐見が98年から続ける南米公演で歌うあの「Sou Japonesa」「オブリガーダ笠戸丸」の作曲家だ。とくに前者は井上3度目の来伯公演の時に引っさげてきたもので、「私にも流れる大和の心は何を教える(中略)いつも心に抱いている白地に紅く燃える想い」との心に響く詩とメロディーはコロニアに深い感銘を与えた▼日本にはあまたの歌謡曲があれど、ブラジル移民のことを歌ったものは殆どなかった。この曲は真正面から移民のことを歌い、しかも最初からコロニア向けに作られたという意味で画期的な楽曲だった。百周年の頃には移民を歌った曲は何曲か日本で発表されたが、先駆けはこの曲だ。藤山さんは井上の公演の帰国報告を誰よりも楽しみにしていたと聞く▼この曲が誕生した時、最初に聞いたのは井上の初代南米ファンクラブ会長の故安藤都明・愛知県人会長(当時)だった。安藤さんは「これは良い曲だから絶対に地方の移住地で沢山の人に聞いてもらおう」と喜んだが、03年に惜しくも急病で亡くなった。実際、取材先の地方会館では「自分のことを歌ってくれている」と涙を拭く観客の姿をあちこちで見た▼あまり知られていないが井上祐見は実は結婚しており、奇しくも移民新世紀の始まり08年1月に男児を生み、すでに子役タレントとして活躍を始めている。百周年の年に誕生したから芸名は『笠戸丸ともやす』と付けたと聞く。井上は根っからのブラジル好きだ。残念ながら昨年は多忙で来伯公演が見送られたが、藤山節雄さんの追悼公演の意味も込めて今年はぜひ再来伯して欲しい。(深)

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