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イビウナ庵便り=中村勉の時事随筆=11年2月21日=時々お温習を(上)

ニッケイ新聞 2011年2月24日付け

 先週NHKのある番組で、東京から富士山が見える日数/年は数年前から格段に増えていると知らされた。経済が停滞しているので、空気がきれいになったと言うことだろう。少しぐらい金勘定が悪くなっても、空気が良くなった方が好ましいと思っている方々には朗報だったに違いない。環境改善と経済成長はトレード・オフ(二律背反)の関係にある。
 そんなことをつらつら考えていたら、自国通貨が割高(日本では円高、ブラジルではレアル高)では悪いのか良いのか、或いは食料自給率の向上は誰の為に良くて誰の為には悪いのか、デフレは果たして悪いのか、等々が気になり出した。以下「おさらい」をしてみた。
 円高:20世紀は石油の世紀、21世紀は水の世紀と言われる。石油に関しては、1974年10月に所謂第1次オイルショックが起き、原油価格(バレル当り)が3ドルから5ドルに、更に12月に12ドルに引上げられた。一挙に4倍になったと言われる所以だ。4年後の1978年12月イラン政変を契機に第2次オイルショックが起き、原油価格は30ドル時代に突入したが、1983年に値下がり始め、2001年の同時多発テロ事件(米国9・11)まで11〜28ドルと安定した時代を経た。29ドル(2002年)→32(03年)→43(04)→59(05)→62(06)→91(07)→41(08)→74(09)→89(10)がその後の原油価格の経過で、現在は100ドル時代と言われる。
 一方、円貨の対米ドル為替相場は360(戦後)→¥260(1985年9月25日プラザ合意)→¥100時代(1994年)→¥90時代(2009年)→¥80時代(2010年)となっている。どう評価すべきか? 大まかに、原油価格は、紆余曲折があったが、一貫して上昇し、円貨は一貫して切上げ(円高)られてきた、と言える。即ち、円建て原油価格上昇のインパクトは円高のお陰で、比較的軽く済んだ、ということだ。
 3ドルのものが100ドルと33倍になる処、日本は3×360=¥1080→100×80=¥8000、詰まり7倍強で済み(円高に助けられて)、日本丸は石油の世紀を上手に乗り切れた。円高なくしては高度経済成長期もなかっただろう。輸出競争力云々以前の問題だ。経済が自由化される以前の日本は世界の中で超高物価国として悪名を馳せてきた。輸入の自由化が物価水準を引下げ、最近漸く世間並の物価になってきた。デフレは消費者、特に高齢者(年金受給者)にとって悪くない。働き盛りに高物価を耐え抜いて来たご褒美だ、と言ってもよかろう。黄昏に並の物価になっても嬉しくも何ともない、と不平を鳴らす者もいる。
 食料:低カロリーの和食がヘルシーだと世界で好評だ。その一方で、日本では「カロリー・ベースの食料自給率が40%を割った、心配だ、自給率を向上しなければいけない」と喧しいが、数字遊びではないか? 世界の飢餓人口は9億人、メタボ人口は10億人超、中でも日本はメタボ国の代表格だ。何故カロリー・ベースで不足だと言うのか、不思議でならない。中近東・北アフリカの最近起っている騒擾の原因は主食(小麦)の急騰だと言っては、日本の食料自給率、経済躍進著しい中国人の胃袋、バイオメタノールと食物との競合、等々と心配の種は尽きない。
 しかし、日本は水(淡水)に恵まれているし、放置された農地の面積が埼玉県より大きい、と言われる。食べ残し(廃棄食物)率も高く、メタボ人口も大きい、更に人口減少を悩んでいる。水=食料であり、技術立国を標榜している国にあっては放置された農地は食料増産予備軍(=供給余力)だ。食べ残しを減らし、メタボを改善すれば、人口減と相俟って、食料需要総量が減る。本来の勤勉な国民性、「頂きますと勿体ない」の文化(思い起こせ!)を味方につければ、食料不足を心配する必要はない。輸入食料も円高のお陰で、買い負けしないで済んでいる。日本の食料不足懸念論は根拠薄弱だ。(つづく)

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