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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年3月2日付け

 「コリンチャンス応援団」からは、今のブラジル民を象徴する勢いを感じる。あのW杯の英雄ロベルト・カルロスが東欧のチームに逃げざるをえない圧力をかけ、世界最優秀サッカー選手3回に輝く怪物ロナウドを引退に追い込んだ影響力はただ事ではない▼昨年の同クラブ創立100周年を念願のリベルタドーレス杯優勝で飾れなかったファンの恨みは深かった。年頭のプレリベルダドーレスで負けたことで一気に不満が爆発。〃戦犯〃追い出しのためには手段を選ばず、監督や選手の車を壊し、チームのバスに石を投げ、観客席から罵倒しまくった。狙われた選手は命の危険すら感じたという▼コリンチャンス応援団の多くが属する層は、ルーラ政権が景気を良くしたことで金回りが良くなり中流階級に上昇した若者だ。ルーラ自身がコリンチャンスを贔屓にしており、大衆に絶大な人気のある政治家として、その辺の支持を背景にしている部分も明らかにある▼応援団は試合の高い入場料という〃税金〃を払い、仕事そっちのけで応援に駆けつける。その犠牲にふさわしくない結果しか出せないクラブ運営陣という〃為政者〃や、期待に添わない選手には成果を求めて暴力的な手段も厭わずに〃抗議〃する。ある意味、理想的な〃有権者〃の姿だ▼問題は方向性だ。その真剣さがサッカーではなく政治に向けられたなら、即時引退を迫られ外国に逃げざるをえない政治家もいるだろう。サッカーでガス抜きをしている民衆の姿に、彼等はほくそえんでいる。勢いのある民衆の目が政治に向けられた時こそ、ブラジルは先進国入りにふさわしい国民を得たといえる。(深)

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