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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年5月5日付け

 キューバと日本は遠い。それでも、学生の頃になると、クーバ・リブレ(自由のキューバ)を手にルンバやマンボに耳を傾け、革命家の詩人ホセ・マルティを語りもした。勿論、あの葉巻にはとてものほどに手が届かないし、専売公社の安いのを吹かし満足していたが、カストロの革命が成功し、独裁者バティスタの亡命や閣僚ら550人を処刑したのは—そんなときだった▼チェ・ゲバラらとシエラ・マエストラ山脈で戦い、政府軍を破ってハバナに入ったのが1959年の1月1日。あれからもう62年になるが、アルゼンチンの医師から革命家に転じたゲバラは、ボリビア山中で銃殺されたが、体調を崩し勇退したカストロ前議長は、それでも、かなり回復し今も隠然たる力を誇っている。だが、世界の情勢は大きく変わりつつあり、キューバも「社会主義」は守るが、商店の自由などを認めるという画期的な方針を決めたのには驚く▼あの国は、革命後に農地や土地をすべて国有化し、医療費や教育費も無償だし、スポーツに力をいれ野球もバレーも強い。つまり共産国家体制なのであり、役人も多い。そこで先頃の共産党大会では、政府の人員削減の方向で進むことを決めた。言わば「小さな政府」の一つだろうが、これは、大きな賭けとも言える▼中南米初の社会主義国家も、変遷を余儀なくされているのだろうし、ちょっとシニカルな見方かもしれないが、あの軍服姿の凛々しいカストロ議長も、世の動きと時の流れには、もう逆らえないのではないか。そこで市場主義の一部導入となったのだが、先ずは成功をと祈りたい。(遯)

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